無観客提言の分科会委員語る「五輪中止の現実味」 感染症の専門家として訴えたいことの本質

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新型コロナウイルスは「社会の病(やまい)」に例える(前編参照)とはいえ、そこまでオリンピックやスポーツについて感染症の専門家が議論することだろうか。

「『感染症を防ぐためには』なんですよ、前提が。感染症を防ぐには、人が動かない、来ない、行かない、というのが大前提だけど、それじゃあ社会生活は成り立たない。

それだけじゃなくて、例えばソーシャルディスタンスという言葉を厳密にとるならば、家の中、家族がいる場でのソーシャルディスタンスなんておかしい。ありえない。くっつきながら生活するのが人間生活の“コア”なんですよ。そこは崩せない。ということは、感染症が出るということは、ある程度目をつぶらなきゃいけないことも出てくるんですよね」

感染者が増える勢いなら無観客にスイッチが妥当

そこでもう一度、現実的な話題に戻る。現状でオリンピックはできるのか。

「いま(インタビュー日の6月30日)の状況をみて、いまの段階ならできるでしょう。今日が開会式であれば。ただしその判断は、開催が可能なのか、終わってから影響が出るのか、大会中に増えるのか、を考慮することによっても違う。

ということは、考え方としてフレックス(柔軟)にやらないといけない。1つの固定観念ではできない。感染の増加によって、途中で作戦の変更も考えないといけない。厄介ではあるけれど、最初からこういうこともあります、と考えておかないと。それはうまくいけばいいけれど、想定したことを何が何でも死守するということでもない。

具体的に言えば、ついこの間の感染状況がピークだった大阪の状態。入院先が決まらないために自宅で待機していても急速に悪化する人がいる。救急車を呼んでも何時間も待たないといけない。この状態が東京で、同時に生じているのだとすればオリンピックは難しいんじゃないか。つまりそうなれば、あるいは、そうなりそうな手前で、中止という判断もありうるべきと思います。あるいは最初からやらないという判断もあるかもしれない。

ただ、それがいつだっていうのは、オペレーションのこともあるので、僕にはわからない。それは開会式の前の日に中止としていいのか、1カ月前に言わなきゃいけないのか、あるいは真っ最中でも中止の判断ができるのか、もろもろのオペレーションのことが絡んでくる。

僕の意見としては、そういう状態で続行するのは難しいでしょと言うことです。そこまでいかなくても、かなり患者数が増えている状態であれば、そこからさらに広まるのはまずいし、多くの人に家に居てください、外出は自粛してください、飲食店も時短営業をしてください、と呼びかけ、あるいは仕事は家でしてくださいとテレワークを勧めながら、オリンピックはどうぞたくさん来てください、ではやっぱり矛盾していることなる。

であるなら有観客ならその数を減らす、感染者数が増えそうな勢いなら無観客にスイッチするのが、妥当ではないですか、と言っている。その点はかなりいま組織委員会でも、国や東京都でも考えの中に入っているようですよね」

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