東京オリンピックの開幕まで2週間あまりに迫った。しかし、新型コロナウイルス感染症のまん延防止等重点措置の敷かれた東京都では、新規感染者数が前週と比べて増加傾向に歯止めがかからず、感染拡大第4波の襲来が現実的なものとなる中で、7月11日までとした同措置の期限の延長もしくは緊急事態宣言の再発出が検討されている。
こうした状況下で、1年延期された東京オリンピックの開催は可能なのか。政府や大会組織委員会などが掲げる「安全・安心」なオリンピックは実現できるのか。
そこで、感染症の専門家であり、東京オリンピックの新型コロナウイルス感染症対策に最も精通している人物に話を聞いた。川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦だ。
五輪の感染症対策の舞台裏をよく知る人物
岡部は、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーであり、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリー・ボードのメンバーであると同時に、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の新型コロナウイルス感染症対策専門家ラウンドテーブル(円卓会議)の座長を務める。
一方で、6月18日に政府の分科会の尾身茂会長ら専門家有志26人が東京オリンピック・パラリンピックに関して「無観客開催が望ましい」とする意見を盛り込んだ「提言書」をまとめて公表したうちの1人として名を連ねる。
新型コロナウイルスの感染が広がりはじめた当初から東京オリンピックの開催期間中まで、感染対策のすべてを内と外から知るキーマンといえる。このまま東京オリンピックを推進すべきなのか、抑止すべきなのか、その両面から現状を導いてきた人物である。
私が岡部に会うのは、彼が国立感染症研究所の感染症情報センター長を務めていたころだから、もう十数年ぶりになる。
当時は、SARS(重症急性呼吸器症候群)が中国、香港、台湾にまん延し、岡部はそのマスコミ取材の対応に追われると同時に、SARS終息後も定期的に会見を兼ねた勉強会を開いていた。そこにSARSの現地取材から戻った私も出席していた。現在は川崎市健康安全研究所の所長を務めるその執務室を訪ねると、挨拶もそこそこにいきなりこう語りはじめた。
「この新型コロナウイルスは、もう感染症の域を超えた病になっている。そういう感じがしますね」
その真意を確認するところからインタビューははじまった。
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