五輪は本当に可能?分科会委員が語る議論の真相 政府の感染症対策に精通する岡部信彦氏に聞く

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「どっちかというと、協議会あるいは組織委員会のほうは選手や関係者の感染対策が中心になる。選手が入国してくるときにやれる話、競技に関係する人の話、選手村を中心とした選手プラスアルファの人たちが、感染源とならないように、またそこから広がらないように、それから競技がもとで広がらないようにという話はした。だから、そこでできあがってきた『プレイブック』はよくできていると思うんですよね。

ですから競技会場に、国立競技場にみんなやって来ました、としても、そうした中では感染は広がりにくいと思う。行動を制限しているし、観客も制限がかかっているから、広がりづらい。

だけど、その観客の人たちが電車や新幹線などに乗って移動して集まったとき、どういう行動をとるか。会場の周りで集まって、楽しんだり、騒いだり。そういうことをしたとき、あるいは地方でそういうことが起きたときにどうなるのか。感染症対策として競技会場の外のことはあんまり組織委員会として検討してやっていることは少ないんですよね。

そうすると、それは主催者というか、競技を提供する側としての東京都であり、自治体だと思うのですが、その部分が不十分だった。そこのリスク評価をとくにおぎなったのが『提言書』であるとも言えます」

競技会場に集う人々にまで対策は広がっていない

アスリートファーストで、選手の感染症対策には主眼が置かれたとしても、競技会場に集う人々にまでその対策は広がっていない。だとしたら、周辺の感染症対策を主催者が検討する、もしくは国が専門家に諮問すべきではなかったのか。

「それは諮問する側に聞いていただきたい」

岡部はそう言った。

「『提言書』はどちらかというと、国内全体の感染症として見た場合、どういう影響を与えるか、こういうことをした場合にはリスクが高まるので、こういう制限が必要ではないか、となっている。

有志で勉強会をしている中でも、誰に向かって提出するのがいいのか、議論はだいぶやりました。ああいう形で提言して、尾身さんが橋本(聖子・大会組織委員会会長)さんに持っていく。西村(康稔・経済再生担当大臣)さんにも手渡して政府に説明している。

国の審議会は形式上、諮問に対して答申する。もちろんそれに付随していろんな課題も出る。しかし分科会、アドバイザリー・ボードなどは、コロナ対策は行うが、オリンピックをどうするかという会議体ではもともとない。話題には当然なるが、オリンピックそのものがテーマではないから、当然メインの課題にはならない。

それから、分科会のなかには、経済界や労働界の代表の方もおられる。自治体の代表者であるとか、いろんな分野の人が総合的に考える。さっきのスポンサーではないけれど、経済的なメリットでオリンピックのことうんぬんとか、意見としてまとまりづらいところがある。だから、感染症対策として特化して、感染症対策として提言書がまとめられた」

(文中敬称略、後編<7月8日配信予定>に続く)

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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