五輪は本当に可能?分科会委員が語る議論の真相 政府の感染症対策に精通する岡部信彦氏に聞く

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岡部も名を連ねた「提言書」の公表に当たっては、尾身会長がその直前の「G7で決まったこと」を前提に中止の文言は除外したとしている。

だが岡部はそれより以前に、もっと違ったところで政府の開催の強い意志を知ることになる。そのことはいずれ話題にあがるが、いずれにしてもここで最も重要なのは、やることを前提にした東京オリンピックが「安全・安心」であるかどうかだ。

「安全、安心は可能になるようにしていかないといけない。やるべきイベントがあって、例えば試験に受かりますか、受かりませんか、受かりそうにないからやめます、とはいかない。何事もチャレンジはある。ただ、安全を求めるあまりに、医療に過大な負荷がかかるようでは、一般の医療にもしわ寄せがくる。そうなると国民だけではなく日本にいる人、一人ひとりが困ることになるので、それは避けなければならない。

だけど不思議なのは、いまの時点で国内の新規感染者も増加の傾向にあって、開催に心配の声もある中で、危ないと言いつつもチケットは握っていて離さない人たちがいる。メディアも、オリンピックは危ない、難しい、という一方で、いま聖火はどこそこ走っています、と伝えて、走っている聖火ランナーと応援の人々の写真を大きく掲載している。スポンサーの顔色を見ているところもある。

そのスポンサーだって、いまはハラハラドキドキでしょう。感染症だけではなくて、総合的な考え方が必要になってくる。

「五輪の中核とは何か」を明確にした議論が必要

みんなオリンピックをやる、やらない、やりますか、やりませんか、私はいやです、私はやります、という議論をしている。おそらく多くの人がイメージしているのは、オリンピックの競技があって、それにたくさんのイベントがくっついた“一大フェスティバル”としての存在ですよね。

世界的なフェスティバルとしてのオリンピックなのだけれど、本当の重要点や精神とは何か。スポーツは人を興奮させたり、広まったり、それを見て次に目指す人が出てきたりするけれども、いちばん大切なことは、いろんなトップ競技をやる場所を提供することがオリンピックなのだと僕は思う。

そこに付随するものはあったほうがいいとも思うけれど、そこにどういうイベントを付けるか、どう楽しむか、どういう人がくるのか、もちろんおもてなしも大事だし、国家交流、国際交流もある。だけど、それらはあくまでついてくるもの。どこまでやるのが真のオリンピックなのか、その議論がないのではないでしょうか。

つまり、オリンピックの“コア(中核)”を明確にして、これならば可能でないかとする議論が必要なことは、自分の意見として言い続けてきた」

オリンピックのコア。岡部がはじめて口にした言葉だった。では、そのコアとは何か。

「競技そのもの。陸上競技であればトラックだけあって、周りには何もない。もちろん、記録の計測であるとか、競技をするための設備とかお膳立てはするが、それをオリンピックと見るのか、見ないのか、意見は出てこない。それをオリンピック競技と認められるのであれば、オリンピックはやったことになる。

もちろん、こういうものは大会の継続性も大切になってくる。選手はもちろんだけど、今は大会に出ていなくても次のオリンピックを狙う人にとっても、そこが重要になってくる。

あらためてオリンピックのコアは、競技をやるということ、そこで記録をつくって、誰が世界の1番か、それを決めること。そのコアがはっきりしていれば、結果として無観客でもいいのではないか」

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