佐藤二朗「脇役でも見る人の心を奪う」魅力の正体 ひきこもりから仏まで演じる八面六臂の名脇役

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

二郎には県道や国道、線路や川を渡ろうとすると体が硬直してしまうトラウマもある。些細なことや当たり前のことができない苦しみをもつからこそ、人に対して偏見や差別がない。人の目を見て話せない割に毒を吐くし、常にひとこと余計でもあるのだが、案外おひとよしで優しさにつけこまれる面もある。

偏屈なのに憎まれない二郎を口癖とリズムで表現した二朗。ドラマでは省きがちな「うん」の口癖をリズミカルに入れて、柔和な特性を炙り出した。記憶に残る名キャラクターだ。

リズムと言えば、エレファントカシマシの宮本浩次が初主演したスペシャルドラマ『俺のセンセイ』(2016年・フジ)の二朗も忘れがたい。大ヒット作を描いた後は10年鳴かず飛ばずで困窮している漫画家の宮本を温かく見守る編集長役だ。

劇中、二朗が心地よく鼻歌を歌うように話すシーンがあった。歌うように語られたセリフは、不器用な宮本への応援歌であり、愛がこめられていた(気がする)。というのも、宮本が心折れ、筆をとれなくなった背景を知っているからだ。

歌うような言い回しは軽薄か悪ふざけに見えがちだが、このときは「痛みを知る人の優しさ」の域で、ちょっと感動したわ。宮本の曲も随所で流れる「歌を味わうドラマ」なので、主演と大テーマを独自の手法でひそかに支える名脇役だったと思う。

迷える父、悩める父、見守る父

佐藤二朗は頼りがい・威厳・大黒柱という父親像とほぼ縁がない。『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』(2013年・テレ東)では、主人公の父親役。このドラマは1980~1990年代に流行したゲームを軸に、3人の男女の青春と成長を描く物語。

バカっぷりが文化財レベルの田中圭、天才ゲームオタクに浜野謙太、ゲーム好き美少女に波瑠と珠玉の面々が甘酸っぱさや恥ずかしさを、ゼビウスやパックマン、ドラクエなど数々の名ゲームが懐かしさをそそる作品だ。

二朗は田中圭の父親でゲームセンター店主。スウェット&半纏姿という定番のダメ男ルック、子供相手のゲーセンの片隅でエロ本を読むような父だ。店番を息子に任せてパチンコに行くわ、息子の勉強を邪魔するわで精神年齢は小学生レベル。

しかもこさえた借金600万! 残念なクズ父と思って観ていたら、別居中の妻(筒井真理子)の登場で真相が判明。仕事で不在がちな筒井の代わりに、二朗は幼い息子と一緒にいる時間を作るためにゲーセンを続けてきたという。劇中、二朗は病に倒れるが、不器用でも逃げなかった父の愛を病床でさりげなく見せつけたのだった。

次ページ逃げたことを悔やむ二朗も
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事