佐藤二朗「脇役でも見る人の心を奪う」魅力の正体 ひきこもりから仏まで演じる八面六臂の名脇役

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二朗が演じるのは、全方位外交で愛想をまきちらす「優しさ」ではない。脛に傷あるいは心に傷を受け、苦しみやつらさがわかるからこその「優しさ」。

その代表作が映画『memo』。自ら監督・脚本そして出演した作品だが、強迫性障害に悩む人の日常を優しさにあふれる目線で描いている。主人公は、意味のない文字を書き殴る衝動に駆られる女子高生(韓英恵)。二十数年も音信不通だったがひょっこり現れる叔父を二朗が演じる。

赤く腫れあがるまで手を洗わずにいられない、会話と会話の間を埋めずにいられない、自分でも制御不能の言動に苦しむ様子が生々しい。強迫性障害をもつふたりが少しずつ心の距離を縮めると思いきや、やりきれない結末。二朗の怪演には息をのんだし、言葉を失った。でも明るさと救いはある。

現在放送中の主演ドラマ『ひきこもり先生』(NHK)の源流も、ここにあるような気がする。11年ひきこもりだった焼き鳥屋店主が中学校の不登校対策に駆り出され、生徒たちの心の琴線に触れていく物語だ。

不登校児にはそれぞれの理由がある。心を閉ざした生徒たちと同じ目線で向き合える人材として、二朗、このうえなく適役。今回は冗舌な役ではないが、頭の中では配慮と優しさがフル回転している様子がわかる。「寡黙な男の美学」とか賢しげな綺麗事じゃない。発する言葉を考えて気を遣って選んで打ち消して悩んで、を繰り返して脳内温度が上昇してしまうようなタイプ。それこそ佐藤二朗の、他の追随を許さぬ揺るぎない持ち味である。

クセの強い「二朗調」セリフ

ということで、佐藤二朗優しさ編をお届けしたのだが、やっぱり語彙の面白さにも触れないわけにはいかない。脚本作品では、登場人物の一部にクセの強いセリフがあり、なんというか「二朗調(ジロチョー)」が憑依する面白さがある。

一人語りやつぶやきがやや面倒臭いタイプや、皮肉や嫌味は強烈なのに険がないキャラクター。前述の『memo』では父親役の宅間孝行と教師役の太田善也がそこはかとなくジロチョーで大爆笑。木南晴夏主演のドラマ『家族八景』(2012年・TBS)では須賀健太や石野真子、眞島秀和あたりが明らかにジロチョー憑依。

現在上映中の映画『はるヲうるひと』は売春宿を舞台にした兄妹の物語だ。2014年の舞台は観たが、映画では山田孝之や仲里依紗を迎え、配役も異なるらしい。シリアスな物語ではあるが、きっと劇中にジロチョー憑依者が必ずいるはず……。観て確かめなければ。つうか観れ。

(文中敬称略)

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