メイドたちは母国で仕事に就くよりも条件がいいから出稼ぎに来ているわけで、雇わなければいいかというとそう単純な問題ではない。しかし、母国の子どもがきちんとケアを受けられる態勢やメイド自身の人権保護の視点などは必要だろう。
住み込みメイドはこのようなさまざまな“問題含み”の制度であり、シンガポール人の「メイド経験」も決してすばらしいものばかりではない。何人も代えながら仕方なく継続している家庭もあれば、日本人からよく聞かれるように「他人が家の中にいるのはいい気分ではない」と雇わないことに決めている家庭もある。
さて、前置きが長くなったが、ここからが今回の本題だ。仮にすばらしいメイドがいたとしても、シンガポールの共働きは決して“イージーモード”ではないのだ。その理由は、これまでの連載をお読みの読者ならわかるだろうか。それは、いくら家事をやってもらったところで、「メイドには子どもの教育を任せることができないから」だ。
シンガポールの親の役割
シンガポールは、安い屋台(ホーカー)で外食したり、テイクアウトしたりもしやすい。メイドに料理を任せる家庭もあれば、シンガポール人はそもそも国が東京23区やや上回る程度の広さであるうえに、実家の近くに家を買いやすいなどの政府施策があるため、実家に夕食を頼る家庭も多く、日本人の子育て世代に比べると料理の手間は格段に少ないと思われる。
住み込みのメイドがいない場合も、掃除のため週1~2回クリーナーに入ってもらうというケースなど、家事の外注の抵抗感はあまりないと言える。子育てについても、産後休暇が短いこともあり、祖父母、ナニーさん、インファントケア等の選択肢があり、乳幼児を「母親が見なくては」という規範も日本に比べれば希薄だ。
しかし、このいわば“家事外注先進国”で、外注できないのが、教育役割だ。量的調査でも主たるケア責任者は母親で、子どもが7歳以上になると学校のサポートが必要になることから親(とりわけ母親)の割合が増えていくことがうかがえる(Hoi Shan Shum-Cheungほか, 2006年 “The Parenting Project”)。
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