「築47年、収納ゼロ物件」で心底満足できる理由 「部屋は狭いほうがいい」に辿り着くまでの軌跡

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家賃となればそうはいかない。すなわち、少なからぬお金を延々と払い続ける「甲斐性」があるかどうかをわかりやすく示すのが家というものになるわけですね。つまりはその方のお住まいを見ればその方の収入がわかる。収入が多いものは広く立派な家に暮らし、収入が少ないものは、狭く質素な家で暮らすしかないのである。

やっと見つけた「眺望良物件」

……ということを、5年前、とある都内の風呂なしアパートに不動産屋さんとともに佇んでいた私は痛いほど感じていた。

5年前。そう会社を辞めた時だ。

会社を辞めるとは、一言で言えば、給料がもらえなくなることである。言い換えれば、これまでのような家賃などとてもじゃないが払えなくなるということだ。さらに言い換えれば、直ちに家賃の安い家へ引っ越さねばならないということだ。

つまりはですね、私は「ステイタス」をドーンと落としたのであり、その結果が目の前にわかりやすく提示されていたというわけです。

いや、ちゃんとわかってたつもりだったんですよ。会社を辞めるってそういうことなんだって。その覚悟があってこそ辞める決意をしたわけで。でも頭で考えることと実際に体験することとの間には、やはり大きな溝があった。

何しろバブルの波に乗ってちゃっかり大企業に入り、年功序列で給料は年々増え、転勤のたびに広くピカピカで環境良好な家へ移り住むのが当たり前というゴーマン極まりない人生を生きてきたのだ。それが50歳にして突然家賃を半分、できれば3分の1以下にしようってんだから、該当物件はこれまでの家とは比べ物にならない。

住宅情報のサイトを連日穴のあくほど眺めるも、オートロックとかウォークインクローゼットとか一体どこの宇宙の話かという世界である。もちろんそんな泣き言言ってる場合じゃなく、とにかく転がり込む先を決めねばならない。

狭くても古くても良いではないか! 屋根と壁があるだけ有難いと思わねば! と自分に言い聞かせるものの、そうは言ってもせめてちょっとでもチャームポイントのある家はないものかと往生際悪くジタバタし、やっと見つけた物件がココなのであった。

5階建ての5階で「眺望良」とある。三度の飯より眺望好きな私の心は踊った。確かにサイトの写真にあった窓からの景色は絶景だ。素晴らしい。この価格でこの眺望はまったくレア。この有難い眺めさえあれば、どんな小さな家でも空を見つめて前向きに生きていけそうである。

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