私、ダメでした。根性も覚悟もまだまだ足りないのだった。結局、少し予算を引き上げて築47年、33平米のワンルームへの引越しを決める。
収納ゼロ、洗濯機置き場も冷蔵庫置き場もないというかなりの特殊物件ではあったが、小屋でもないし床も斜めじゃないし天井も普通に高い。これが当時の私のギリギリの折り合いだった。
引っ越した日の夜の「決意」
とはいえ、引っ越し当日の夜の心細さは今も忘れられない。
収納がないので運び込める荷物はほんのちょっと。ゆえに引っ越し前に鬼の断捨離を決行してスッカラカンの身の上である。引っ越し屋のお兄さんに「荷物、少ないっすねー」と褒められて苦笑い。
その少ない身の回りの品を一個の箪笥の中に押し込め、ガラーンとした部屋で一息つくと、壁の向こうから隣の家の険悪な親子ゲンカの声が一言一句まで聞こえてきた。別の壁からはおじいさんの大きなくしゃみの音が筒抜け。
なるほど47年前の家には防音という概念はほぼ無かったのだナーと、うら寂しい感慨に浸る。
ふと視線を上げると、壁のひび割れとシミが目に付いた。私は今日からここで生きていくのだ。大丈夫だろうか?
……いやもちろん大丈夫に決まってる。丈夫な屋根も、薄いとはいえ壁もある。台所もある。生きていくのにはまったくもって十分ではないか。
でも私は不安だった。
もちろん生きてはいける。でも私の心はどうなのだろう? 他の誰を騙せても、自分の心を騙すことはできない。私はこの空間の中で、惨めだとか、悔しいとか、寂しいとか、そんなことを一切思うことなく、ちゃんと前を向いて元気に生きていけるんだろうか。
そんなことを考え始めたら眠れなくなった。なにしろ人生でこんな体験をしたことがないのである。
ぐるぐると答えのない問いをひとしきり繰り返した後、いや、これが私のゴールじゃないんだ、ここから再スタートを切るんだと考えれば良いのだ、今は無職で何の収入のあてもないけれど、頑張りようによっては以前のような収入を得ることができないと決まったわけじゃない。
そうだよいつかここを出てもっと広くて綺麗な家へとステップアップしていくことも不可能ってわけじゃないのだ、そう思えば下を向いて生きる必要なんてないではないか!……と自分に言い聞かせ、ようやく眠りについたのでありました。
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