味の素が流した、「とんでもない」性差別CM 「食事はお母さんが作る」は当たり前ではない

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「食事を作るのはお母さん」。CMのメッセージは、前回の記事で取り上げた渋谷区教育長の発言とまったく同じです。日本の場合、食事を作るのが歴史的に圧倒的に女性の役割であったのは事実ですが、お母さんだけが食事を作るようになるのは、大都市部で大正期、全国に広がるのが高度成長期にすぎません。

女中、娘、嫁、おばあちゃんなど、それが女性であったとしても、「お母さん」だけになったのは、実はごく最近なのです。なのに、まるで世界中で歴史的にずっと、「食事を作るのはお母さん」であったように思わせている。そしてそのことによって、それがこれからも続くと無批判に前提としています。CMのバックに流れる歌で「(食事作りは)何十万年も、何十億人ものお母さんが続けてきたこと」とだめ押しをすることで、「男性が食事を作ることを含めた、ほかの選択肢がある」ということを、完全に認めないような作りにしている点で、これは性役割分業を固定化する、極めて悪質なCMなのです。

お客様相談室の説明は?

こんなCMを堂々と発信する食品会社の感覚が、私にはまったく理解できません。企業のトップがよくこんな差別的なものを認めるものだと、驚くばかりです。企業イメージを悪くするだけだと思うのですが。男性が家事・育児に関わるシーンをもっと入れていれば、イメージを変えることができたはずなのに。

というわけで、味の素のお客さま相談室にメールで抗議をしたのですが、

固定的な性役割分業を肯定したり、助長したりするような影響は無いように留意し、父親が子供の着替えを手伝う場面などを入れて制作しましたが、母親が主人公のストーリーのため、お客様のご指摘の通り父親を前面に出す演出にはなっておりません。

とのお答え。やっぱりこの程度の発想だからこそ、こういうCMを作れるのですね。家事・育児は「手伝う」ものではなく、共有する、シェアするものです。共働きなのに、「父親が子どもの着替えを手伝う」という意識でいること自体を「固定的な性役割分業」というのであって、まったくの無理解としか言いようがありません。呆れました。この点を指摘するメールも送ったのですが、8月6日時点で、味の素からの返答はありません。

このままでは「食事を作るのはお母さんの仕事、しんどくてもがんばりましょう」というメッセージだけを発していると受け取られてもしかたありません。「あなたは、あなたの食べたもので、できている」という台詞が最後に入りますが、私は味の素の商品を食べて、あんな固定的な性役割の世界の住人になりたくはありません。「過去にそうだったから、未来もそうなる」と言うのなら、それは人類の進歩を全否定する暴論です。

小4の息子にCMを見せたら、「なんか変!」と言っていました。「どうして?」「だって、朝ご飯はママだけど、夕食はパパだし、保育園も買い物も、パパが遅い時以外は、いっつもパパだったしぃ……」。

うちが「変わった家庭」なのはわかります。ですが、家族の形態が多様化する中で、小学生ですら感じる「変!」を無視して、こんな世界を「普遍化」するのは許されないと、私は考えます。

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瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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