3カ月待ち「パンのサブスク」人々が熱狂する理由 「どこのパンが届くかわからない」のに人気沸騰

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群馬・高崎市の住宅街にある「ブーランジェリー サイ」は今年で3年目の新しい店だ。パンフォーユーについてはテレビ番組で見て知っていた、とオーナーの齊藤貴規氏は話す。2年前の冬にツテができて売り込んだ結果、2020年4月からパンスクに参加。現在では月間1600~2000個分の安定収入が得られるようになった。

「パンは夏になると売れなくなり、雨の日でも売れない。でも、去年の8~9月はパンスクの注文が多くて本当に助かりました。また、オーダーいただいた分だけ作るパンスクではロスが出ない。私は1人で作っているのですが、売り上げが悪いと『パンがおいしくないのかな?』などと悩んでしまいます。そういったストレスが、パンスクでなくなりました」(齊藤氏)

利用者から寄せられるメッセージも励みになっているという。「近くにあったら、通い詰めるのに!どのパンもおいしいですが、大好きなカヌレがおいしく、『明日もがんばろう』って元気をいただいた気がしました」(神奈川県鎌倉市、女性)。「私はフランス人ですからパンが大好きです。オレンジ・ブリオッシュのクリームは最高で、今でもその味を覚えています。高崎市へ行ったらぜひ、ブーランジェリー サイでおいしいパンを食べます」(男性)といった声が寄せられている。

実は「おいしいパン」は盲点だった

矢野社長のように、地域を盛り上げようと活動する人は近年増えており、その地域にしかない観光や地場産業などに注目するものが目立つ。だが、どこにでもあるパンは盲点だったかもしれない。そして、冷凍で全国に配送されるパンが多くなって収入が安定的に高くなれば、パン屋は必ずしも長時間労働で人手不足の仕事ではなくなる可能性がある。

世界にグルメ都市として知られる東京で、「おいしいパン」を知らない人がたくさんいる、という点も盲点だったと言える。考えてみれば食の選択肢は多様で、必ずしもパンにこだわっていない人は大勢いる。

そうした中、パン屋のパンの魅力を知る人が増え、もっと売れるようになれば、パン屋の水準を押し上げることにつながり、結果としてパンの価値も上がっていく。収入が上がれば、パン屋で働く人たちが消費をする、パン屋で働く人が増えるといった好循環が生まれていく。何と言っても、パン屋は全国にあることが大きい。つまりこれは、桐生市限定ではなく、全国の地域を活性化することにつながるのだ。

パン1つひとつは決して高価ではないし、気軽に買える商品である。しかし、気軽だからこそ人とシェアし合って楽しめる。おやつにも食事にもプレゼントにもなる。これまで私はさまざまなパンの取材をしてきたが、なぜか食べた人が少しだけ幸せになるパンの魅力を感じてきた。冷凍宅配サービスは、そうしたパンを起爆剤として、社会を変えていくビジネスなのかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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