東京藝大の名物教授が学生に問う独特課題の意味 「チャーミングに異を唱えよ」の題にどう答える?
国谷:そのユニークな課題を学生たちが自分でやるということは、自分が学生の時にそういうものがあったらよかったなって思いからですか。箭内さんからすると藝大の授業のどこが悪かったのですか?
箭内:いや、全然悪くはないんですよ。放っておかれてよかったなって思うし、何も教えてもらえなくてよかった。
国谷:何も教えられなかった?
箭内:そういう学校だったんですよね、昔は。学生も、教えてほしい教えてほしい、授業料分ちゃんと指導してほしいなんて思う学生もいなくて。教えてほしい教えてほしいになっちゃうと、教える人と教わる側の絶対的な関係みたいなのが生まれてしまうじゃないですか。それが僕はいやだなと思う。
国谷:上下関係にはなりたくない。
僕らはただの管理人なだけ
箭内:この学校の素晴らしさは、充実した教員陣だけじゃなくて、難関をかいくぐってきた、だけど違う夢を見ている仲間たちが隣にいて、同じ課題、例えば「チャーミングに異を唱えよ」って言われても、違う答え方をする仲間がデザイン科だと45人いる。それがやっぱりかけがえのない体験なんですよね。僕らはただそれの管理人なだけなんですよ。
もちろんそうじゃない先生方もたくさんいるし、「お前それ、給料泥棒だろう」って言われるからちょっと危ないんだけど(笑)。でも僕は、ちょっと背中を押したり刺激を与えたりする存在でいたい。でもその「ちょっと」が重要だから、僕の仕事の現場を見たいっていう学生はどんどん連れて行ったりもしています。それは背中を見せるとかそんな恰好いいことではないんですけど、僕が慌ててたり困ってたり悩んでたり、恰好よく解決したりっていう、そういうドキュメンタリーを生で見てほしいなって思っています。
国谷:面白いですね。
箭内:青い。青いんだと思いますよ。甘っちょろいんだと思いますよ。これ読まれたら「お前それじゃ教授務まんないよ」って絶対言われちゃいます。
国谷:学生が自分と向き合うような授業をされている。自分で自分を覚醒させないといけない、自己覚醒させる授業をされているような感じがします。
箭内:それは狙っています。その時の快感を感じてほしいんですよね、学生たちに。怖さと驚きと気持ちよさみたいな。それはこれから一生、ものを作っていく時の何か大事なお守りになる気がしていて。ちゃんとしたことを教える先生はたくさんいるし、そういう先生から学生たちはちゃんとしたことをしっかり教わっているんで。
デザイン科は研究室ごとにテーマ設定がされているんですけど、僕は「Design Alternative」っていうところなんですよ。だからみんながデザインだって言っていないようなものもデザインなんだって考える。例えば、美味しそうなお弁当をお母さんが作ったらそれもデザインだみたいなね。