国際協力の新潮流と日本が行うべき「質の援助」

前アジア開発銀行総裁の中尾武彦氏に訊く

ところで、外務省が立派なのは、内部の文書が全部、公電として残っていて外交史料館もあることです。したがって、過去の援助やADB創設時の話なども、私から見ると外務省寄りに見える記録が残っていると感じることがあります。例えば、新しい援助のイニシアティブが大蔵省主計局の反対でできなかったというような話です。現実には、主計局も本来は話せばわかるということが多いのです。それはともかく、情報公開ということに加えて、アーカイブ、歴史への責任を果たすための記録の重要性を感じます。

宮城:賠償からの連続性や、冷戦下における対米関係への配慮でODAを増やしたなど、要素はいろいろありますが、結果として日本の援助が果たした役割をどのようにご覧になりますか。

宮城大蔵(みやぎ たいぞう)/1968年生まれ。1992年、立教大学法学部を卒業後、NHK記者を経て、2001年、一橋大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。政策研究大学院大学助教授などを経て、現在は上智大学教授。著書に『戦後アジア秩序の模索と日本』(創文社、2004年、サントリー学芸賞・中曽根康弘賞受賞)、『現代日本外交史』(中公新書、2016年)、『戦後日本のアジア外交』(編著、ミネルヴァ書房、2015年、国際開発研究大来賞受賞)、『【増補】海洋国家日本の戦後史』(ちくま学芸文庫)などがある(撮影:尾形文繁)

中尾:最初は賠償と並んでコロンボ・プランなどの技術協力ですね。やがてOECFを使って円借款をどんどん出していった。中国でも財政部の人たちはよくわかっていて、日本にずいぶんお世話になったと思っているわけです。中国が文化大革命を終結させ、改革開放路線に転じたあと、1978年に日中平和友好条約を締結した当時の中国には、技術も外貨も不足していました。

そうした中、いろいろなインフラの整備が円借款で進みました。日本側では、田中角栄、大平正芳ほかの政治的なリーダーたちも、戦時の賠償を請求しなかった中国、新たに改革開放に舵を切った中国を助けよう、それがアジアの安定にもなる、日本の繁栄も助けるという考えを持っていたと思います。

韓国を助け、中国を助け、ASEANの国々に対しても円借款を強力に用いて発展に寄与したことは間違いありません。税金をそのまま使うのではなく、国内の貯蓄、すなわち郵便貯金や年金資金を原資とする財政投融資の資金を活用した円借款は、効率的な援助の手段でもありました。

アジアの繁栄を支えた「円」

ベトナムやカンボジアなどが1990年代に、また2010年代にミャンマーが国際金融の世界に復帰して、世銀やADBの融資、円借款を再開しようとしたときは、まずはこれらの国々による返済の延滞を解消する必要がありました。JBICや日本の金融機関がつなぎ融資を提供し、その後の新たな融資につなげました。

アジア通貨危機(1997~1998年)のときにも、日本はIMF、世銀、ADBと協調して、予算支援型の大規模な円借款を供与し、インドネシア、タイなどの国際収支、財政の困難を助けました。日本の役割は非常に大きかったと思います。軍事政権下で閉鎖的だったミャンマーの改革、民主化を助けることについては、日本では自民党政権も民主党政権も非常に熱心でした。それだけに今回のクーデターに大きな衝撃を受けている関係者は多いと思います。

宮城:アジア通貨危機の際には、日本の大蔵省(当時)が中心となってIMFのアジア版であるAMF(アジア通貨基金)の創設を提起しました。米中の反対などで潰えたと言われていますね。

中尾:中国に対しては香港を通じて接触したけれど、強い支持は得られなかった。

一方、アメリカのサマーズ財務副長官はIMFの機能を弱めるものとして強く反対し、結局実現しませんでした。

しかし、実は、その後のASEAN+3(日中韓)によるチェンマイ・イニシアティブは、危機時の外貨の相互融通、マクロ経済政策の対話、シンガポールにあるAMRO(各国経済調査・監視のための国際機関)の創設といった、AMFがねらった要素をほぼすべて実現しているのです。

それに、大きな国際金融危機に対しては、IMFが旗を振り、世銀、ADBなどが新たな融資をし、日米欧の銀行にも新たな貸し付けやリスケ(返済猶予)を求めるといった世界的な対応が必要ですから、アジアだけの通貨基金というアイデアには最初から多少無理もあったというのが私の考えです。

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