国際協力の新潮流と日本が行うべき「質の援助」 前アジア開発銀行総裁の中尾武彦氏に訊く
宮城:そのような中で、これからの日本の国際協力をどのように考えればいいと思われますか。
「量」から「質」への転換を
中尾:1990年代頃から、アジア全体が発展したこともあって、また日本の力が相対的に衰えて、財政赤字、国債の累積や人口の減少、高齢化もある。国際協力について、なんでそこまでやらなければいけないのか、金だけ出しても尊敬されないのでは、という意識は国民に強まっていると思うんです。
ですから、ODAは金額よりも、その使い方をより効果的なものにしていく、相手国の政策にも、より密接に結びつけていくことに重点をおくという考え方が自然に出てきます。それは、第2次ODA大綱(2003年閣議決定)にもすでに強く打ち出されています。要は量から質へということですね。
この大綱のもとになった自民党ODA改革ワーキングチームの報告書の素案作りには、私も財務省の開発政策課長として、ワーキングチームをリードした武見敬三参議院議員の部屋で、外務省経済協力局の横井裕課長(のちの中国大使)や経産省貿易経済協力局の岩井良行課長(のちの特許庁長官)とともに毎日のように集まって、国益の位置づけ、効果的なODAの体制などの議論をしたのはよい思い出です。
日本のODAがアジア、とくに東アジアの発展に大きな貢献をしたことは疑いがない。一方、アフリカ向けでは大量の債務削減をしていて、東アジア型の発展を導けなかったのは結果的にそうなってしまったということかもしれませんが、やはり効果というものをもっと重視していかねばならない。インドなど南アジアや中央アジアについても、かつての東アジアとは環境が異なる面もある。
宮城:最近では「一帯一路」など、中国の援助戦略に対抗しようという意識が日本の一部でも強くなっているように見えます。
中尾:援助、とくに円借款のような貸し付けによるものは、経済合理性があって、相手の返済能力を高めるようなものでなければならないわけです。中国の「一帯一路」による貸し付けは、まず金利などの条件がODAの基準を満たしていませんし、経済合理性や返済能力ということをあまり考えず、規模とスピード中心でやっている。
そもそも、中国はODAの基準を決めているOECD、その開発委員会にも加盟していません。そのような中国の資金協力に対抗して日本も大きな金額を振り向けていくというのは、将来、返済の困難になりうるし、それは日本にとっても相手国にとっても問題です。量で対抗するといった発想は適当ではないでしょうね。一方で、援助の分野でも、日本からの保健、教育、環境などの分野でのきめ細かい協力、NGOを通じた市民社会との連携などの重要性は増しています。
宮城:日本自身にとっての利害をよく見極め、これまで日本のやってきたことにも自信をもって、これからの国際協力のあり方を考えることが大事なのでしょうね。
(後編につづく)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら