八王子「崩落アパート」施工会社が倒産した顛末 事故後1カ月で自己破産、コンプラ違反歴も

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内部管理体制にも以前から、課題が散見された。2017年12月から倒産まで代表取締役だったX氏は登記上の代表に過ぎず、実質的な経営者は「会長」と称するA氏とされていた。

2020年2月に相模原市から受けた行政処分の事案でも、市が公表した資料にA氏が実質経営者である旨やA氏の指示で基準に違反する処理を行っていた旨が明記されている。

このほか、業績が下降線をたどり始めた2018年頃から、取引先の間で工事代金の支払いが遅れているという話が飛び交った。「1年以上、未払いが続くこともザラだった」(都内の工事業者)。売上高が約9億7800万円とピーク時の半減以下となった2020年4月期中には、取引先の間で信用不安情報がたびたび出回る「倒産警戒銘柄」とすでになっていた。

取引先や調査会社の間でこれだけ悪評が流れてはいたものの、すぐに破綻が表面化することはなかった。則武地所の内情まで詳しく知らない一般個人や地主筋からは、一頃に比べて減っていたとはいえ、一定の引き合いがあったからだ。

現在は閲覧不可となっているが、倒産直後に則武地所のホームページ(HP)を閲覧すると、こんな文言が並んでいた。

トップページには「薫るヒノキ、広がる笑顔」とあり、続けて「則武地所は、工程のすべてを自社で行うことで、快適なヒノキの家を驚きの低価格でご提供いたします」とある。

何も知らない人が見たら、この会社に頼んでみようかと思っても不思議ではないほど、好印象を与えるHPだ。まさか死亡事故が発生し、警視庁から捜索を受けるような会社にはとても見えないものだった。

アパート所有者への補償は

国土交通省は13日、則武地所が手がけた集合住宅が東京都と神奈川県に計166件あることを明らかにし、自治体側に調査を求めた。則武地所の自己破産の申請代理人によれば、会社側が施工した他のアパートを点検したところ、少なくとも57の物件で階段の劣化などが確認されたという。

あわせて物件の所有者には、詳細な調査や修理を求める文書を出したというが、則武地所がすでに自己破産を申請した今、会社側ができることには限界がある。

低単価や利回りの良さなどから、則武地所に施工を依頼したアパート所有者は今後、一定の負担を強いられることになるだろう。各地のアパートで暮らす住民にとっては、施工会社ではなく、物件のオーナーに対して修繕を要求するためだ。

通常であれば、物件オーナーは施工会社に対してその費用を請求する流れになるが、破産申請した則武地所に支払原資がそこまであるとは到底思えない。今後の債権調査次第ではあるが、最終的には実際の調査や修理費用は物件所有者が負担して行う他なさそうだ。今この瞬間も、則武地所が施工したアパートには多くの住人が生活しており、オーナー側にも早急な対応が求められる。

死亡事故発生後、則武地所に関する様々な情報が飛び交っている。現場の職人は杜撰な工事にうすうす気づいていたことなどだ。現時点で警視庁が捜査中の段階であり、同社が意図的、組織的に「手抜き工事」を行っていたか断定的なことは言えない。今後、民事、刑事両面から、法廷の場で同社および経営者の責任追及がなされるのだろう。

しかし、事故発生から1カ月も経たずして破産を申し立てた同社の経営姿勢からは、アパート住民や所有者と真摯に向き合う誠実さは感じられない。会社として賠償したくないから、破産を選んだとの誹りは免れないはずだ。

内藤 修 帝国データバンク 横浜支店情報部長

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ないとう おさむ / Osamu Naito

1977年、横浜市生まれ。2000年に同社入社。本社情報部、産業調査部、東京支社情報部を経て、2018年10月から現職。入社以来18年以上にわたって、企業取材、景気動向のマクロ分析とともに、注目業界の動向やトピックをまとめた『特別企画レポート』の作成を手がける。専門は、倒産動向分析、企業再生研究。

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