人類が迎える「第3の定常化時代」はどんな時代か 問いなおされる「拡大・成長」と「不老不死」の夢
以上、経済社会の動きに関するものとして「新型コロナと気候変動」、また個人の人生や死生観に関するものとして“現代版「不老不死」の夢”という話題を取り上げたのだが、これらは異質のテーマであるように見えて、実は共通の性格あるいはルーツをもっている。
それは、私たちが「限りない拡大・成長」を追い続けていくのか、それとも何らかの意味で地球環境や人生の「有限性」を認め、しかしその中で最大限の幸福や喜び、創造や価値を見いだしていくか、ということが問われているという点だ。
想像できるように、このテーマはそう簡単に答えが出るという性格のものではない。しかし、それは新型コロナや気候変動の問題が現実の世界を大きく揺るがし、またテクノロジーの進化の中で上記のような“現代版「不老不死」の夢”が論じられる中で、どうしても取り組み、何らかの考えやスタンスをもつことが求められている、私たちにとってのいわば“時代の問い”なのである。
「第3の定常化の時代」はどのようなことが起こるか
こうしたテーマを、正面から取り上げ、それについての私としての答えあるいはビジョンを示そうとしたのが本書『無と意識の人類史:私たちはどこへ向かうのか』にほかならない。
その概要をここですべて紹介することはスペース的にも困難だが、1つの導きの糸となっているのは、私自身がこれまでの著作の中である程度論じてきた、「人類史における『第3の定常化』の時代」としての現代、という把握である。
ごく簡潔にそのポイントを記そう。人類史を大きく俯瞰すると、それは人口や経済において「拡大・成長」と「定常化」というサイクルをこれまで3回繰り返してきており、しかも、拡大・成長から定常化への“移行”期において、それまでに存在しなかったような革新的な思想や観念が生成する、ということが浮かび上がってくる。
3回のサイクルとは次のようなものだ。すなわち、第1のサイクルは私たちの祖先である現生人類(ホモ・サピエンス)が約20万年前に地球上に登場して以降の狩猟採集段階。続く第2のサイクルは約1万年前に農耕が始まって以降の拡大・成長期とその成熟であり、そして第3のサイクルは、近代資本主義の勃興あるいは産業革命以降ここ300~400年前後の拡大・成長期である。
この意味で、私たちはいま人類史の中での「第3の定常化」の時代を迎える入口あるいは移行期に立っていることになる。
言い換えれば、それだけ大きなスケールの変換の時期を私たちは迎えようとしているのであり、本稿の冒頭に記したように、こうした人類史的な視野で現在を捉えなければ、私たちが生きている時代の意味、そして未来の展望は見えてこないのだ。
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