フェイスブック「トランプ問題」責任逃れのツケ 自社「最高裁」が放ったブーメラン裁定の意味

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フェイスブックは別の方面からも多くの圧力にさらされていた。民主党支持者、公民権団体、そして自らの従業員からの圧力だ。彼らの多くは、トランプがフェイスブック上に存在し続けていては、有害なデマやヘイトスピーチは絶対に減らせないと考えていた。ザッカーバーグらがどのような判断を下そうと、ネット上で広がる言葉の戦争は激化し、さらなる敵を作ることは目に見えていた。

監視委員会が5日に決定を下す前、ザッカーバーグらフェイスブックの経営陣は、監視委員会が骨抜きだとする世論を覆すのに全力を挙げていた。フェイスブックは法的に独立した信託組織を通じて監視委員会に予算を提供。委員会メンバーは超一流の専門家で構成され、フェイスブックはその裁定に従うと公約している。

だが、どれだけ正当性を主張しようとも、この監視委員会にはつねに偽装工作の影がつきまとっていた。メンバーはフェイスブックによって選任され、フェイスブックから多額の報酬を受け取っている。

監視委員会の権限は限られ、その裁定には実質的に何の拘束力もない。ザッカーバーグが監視委員会の助言に逆らってトランプのアカウント復活を決めたとしても、誰も彼を止められないのだ。

ザッカーバーグの詭弁にだまされるな

誤解を避けるために断っておくが、監視委員会が無価値な実験だと言うつもりはない。このような問題にザッカーバーグの独断で対処するのがよいと言っているわけでもなければ、企業の諮問委員会より政府のほうが的確な判断を下せると言うつもりもない。

さらに、透明性と一貫性のある方法で自らを律するという意味で、ほかのソーシャルメディアのほうがフェイスブックより優れていると言うつもりもない。例えば、ユーチューブは凍結したトランプのアカウントについて、時期は未定だが暴力をあおる危険性が少なくなった段階で将来的に復活させる、と述べるにとどまっている。

要するに私が言おうとしているのは、監視委員会を設けたところで本当の意味での説明責任を果たしたことにはならない、ということだ。このような仕組みをつくったところで、何十億人という人々が利用するネット上の言論空間に対してザッカーバーグやほかのソーシャルメディアのトップが持っている権力をチェックしたことにはならない。

監視委員会の決定に対する捉え方は人それぞれだろう。だが、これがフェイスブックから独立した機関だなどという詭弁にだまされてはいけない。フェイスブックの真の支配者はザッカーバーグであり、フェイスブックは今でもザッカーバーグの掌中にある。裁判所のような仕組みをつくったからといって、その評決でこの事実が変わるわけではない。 =敬称略=

(執筆:テクノロジーコラムニスト Kevin Roose)
(C)The New York Times News Services

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