糖尿病なのに「糖質制限に挑戦した男」の大失敗 最悪の場合「心筋梗塞」「脳梗塞」に陥るリスクも

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実際に、それを象徴するケースがありました。

中国に単身赴任していた2型糖尿病の患者さんで、血糖降下薬を服用していた方がいました。中国では経口血糖降下薬が処方箋なしで薬局で購入できるため、10年ほど前から病院に通わず、自分で血糖値を測定しながら対処していたといいます。

しかし、あるときから血糖降下薬では血糖値が下がらなくなり、自己判断で内服薬を中止し、炭水化物をいっさいとらない糖質制限食に切り替えたというのです。具体的な食事は、野菜類と目玉焼き(朝食3個、昼食1個、夕食1個)を毎日食べる、という内容です。

それでしばらくは血糖値が安定していたようですが、2020年春頃から視力障害が出始め、同年9月に帰国した頃には口の渇きも強くなり、慈恵医科大学病院を受診しました。

すぐに検査をしたところ、高血糖に加え、悪玉コレステロール値は305(基準値60〜119mg/dl)、中性脂肪は271mg/dl(基準値30〜149)と高い値で、即入院となってしまったのです。

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そもそも糖質制限をしたのに、なぜ高血糖状態になってしまったのでしょうか。これは、たんぱく質と脂質のみをエネルギー源としたことで、血中の脂肪酸(遊離脂肪酸)濃度が高くなり、脂肪毒性を介してインスリン分泌能が低下したためと思われます。

そのため、少量の糖質しかとっていなくても(どんな食品でも、たいていはわずかながらでも糖質は含まれています)、血糖値が上昇してしまったということです。

最悪、心筋梗塞や脳梗塞発症の危険も

幸い、この患者さんはインスリン治療によって血糖コントロールができるようになりましたが、放置しておけば、糖尿病が悪化するだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞を発症してしまっていたかもしれません。

また、炭水化物には食物繊維を含むものが多いた め、炭水化物を制限すると食物繊維不足となり、血糖コントロールをはじめ、腸の健康を 阻害するなど、全身の健康にも影響が出ます。

さらに腸内環境でいえば、糖質制限下では積極的に食べてよいとされる肉、とくに赤身肉(牛肉・豚肉・羊肉)は、食べ過ぎると腸内環境が悪化するばかりか、大腸がんのリスクも高まるので注意が必要です。

森 豊 東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科教授

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もり ゆたか / Yutaka Mori

東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科教授、東京慈恵会医科大学附属第三病院 糖尿病・代謝・内分泌内科診療部長。医学博士。

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松生 恒夫 松生クリニック院長、医学博士

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まついけ つねお / Tsuneo Matsuike

東京慈恵会医科大学第三病院、松島病院大腸肛門病センターなどを経て開業。便秘外来を設け、30年間で4万人以上の腸をみてきた「腸のエキスパート」。『大丈夫!何とかなります 腸内環境は改善できる』(主婦の友社)、『スッキリ解決!腸のお悩みQ&A』(海竜社)、『血糖値は「腸」で下がる』(森豊共著・青春出版社)ほか。

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