アメリカは本当に「反グローバル化」に向かうか

新しい保守主義の潮流「ハゾニー主義」を探る

柴山:その一方で、金融経済に大量のお金が流れ込み、もともと過熱気味だった資産市場にさらに火がつきました。その結果、テスラのイーロン・マスクをはじめ、富裕層たちはコロナ禍の中にもかかわらず資産を増やしています。貧困層の救済のために財政出動を行い、その目的は一定程度達成されつつある一方で、格差もとてつもなく広がってしまった。

現在のバブルは、長くても1年以内に弾けると思います。貧困層を助けるための政策が、別の危機を呼び込んでしまっているわけです。

バイデンは高所得層に税金をかけたり、社会保障を増やすなど、健全な福祉国家の再建を目指しているのかもしれませんが、いまの資本主義の仕組みそのものを見直さない限り、新たな問題が次々と出てきて、また大きな危機に発展してしまう。

中野:その点は私も同意見です。しかし、バイデン政権がグローバリズムと距離をとり始めたこと自体はいいことだと思います。一例をあげると、バイデン政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に登用されたジェイク・サリバンは、オバマ政権のスタッフでしたが、TPPは誤りだったとして、強力な産業政策が必要だと明言しています。

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『小林秀雄の政治学』(文春新書)などがある(撮影:尾形文繁)

ただし、一言だけ言わせてもらうなら、10年遅い。柴山さんがおっしゃるように、ここまでグローバリゼーションが進んでしまった以上、この路線を切り替えるのはそう簡単なことではありません。

また、バイデン政権はバイデンの年齢を考慮すると長くて4年ですが、過去の民主党の振る舞いからすると、バイデン政権の任期途中か、あるいは次の政権になってから、再びグローバリズムに舵を切る可能性がないとは言い切れません。

:私も民主党には期待できないと思います。マーク・リラというコロンビア大学教授が『リベラル再生宣言』(早川書房)という本で、リベラル派、つまりアメリカの民主党はしばらく前から、国民に呼びかけ、議会を通して社会を改善していくことをほぼやめてしまったと嘆いています。その代わり、彼らは大学町に逃げ込み、立法ではなくもっぱら司法を通して社会改革を行おうとするようになったというのです。

これは国民の連帯を重視し、国民の意思で社会の針路を決めていこうとするナショナリズムとは真逆な態度です。バイデン政権にもそれが表れていると思います。彼らがナショナリズムを重視するとはとうてい思えません。

ナショナリズムの評価が落ちた理由

柴山:バイデン政権が直面している困難はもう一つ、アメリカはナショナリズムに回帰し始めたと言われていますが、それと同時に「ナショナリズムなど時代遅れだ」という風潮も依然として根強いということがあげられます。グローバリゼーションが格差をもたらしたことは広く知られるようになりましたが、だからと言ってナショナリズムを掛け値なしに信じられる段階に戻ったわけではありません。

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