アメリカは本当に「反グローバル化」に向かうか 新しい保守主義の潮流「ハゾニー主義」を探る

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:ハゾニーはトランプ政権の政策にも大きな影響を与えていました。例えば、トランプ政権の国家安全保障会議(NSC)の報道官を務めたマイケル・アントンは、2019年4月、外交誌『フォーリン・ポリシー』に「トランプ・ドクトリン――政権内部の人間が大統領の外交政策を説明する」を発表しました。その中で『ナショナリズムの美徳』はトランプ政権の外交政策の基盤とされ、再三引用されています。

国連総会でのトランプの演説にもハゾニーの影響が

また、トランプ大統領は2019年9月に国連総会で演説していますが、ここにも、グローバリズムを批判し、多数の国民国家からなる世界秩序を擁護しようとする点でハゾニーの影響が色濃くあらわれています。少し長くなりますが引用します。

これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論します。この連載の記事一覧はこちら

「愛する我が国と同様に、この会議場に代表を送っている各々の国はそれぞれの歴史と文化と伝統を慈しんできました。それらは守り、祝福するにふさわしいものですし、我々に並外れた可能性や強さを与えるものでもあります。

自由な世界は、各国の基盤を大切にしなければなりません。国々の基盤を消し去ったり置き換えたりしようなどと試みてはなりません。

……あなたがたが自由を欲するならば、祖国を誇りに思いなさい。民主主義を欲するならば、あなたがたの主権を大切にしなさい。平和を欲するならば、祖国を愛しなさい。賢明なる指導者たちはいつも自国民の善と自国を第一に考えます。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

未来はグローバリストたちのものではありません。愛国者たちのものなのです。主権をもち独立した国々こそ、未来を有するのです。なぜならば、このような国々こそ自国民を守り、隣国を尊重し、そして各々の国を特別で唯一無二の存在にしている差異というものに敬意を払うからです」

これはいわば「ハゾニー主義」とでも言うべきものです。日本のリベラルな大手マスコミは、トランプはむちゃくちゃな人間だと報じていましたが、かなり自覚的なナショナリストだったというのが私の見立てです。グローバリズムの目指す国境なき世界ではなく、各々の文化的伝統を担った多数の国々が共存する世界秩序を擁護しようという意味でナショナリストなのです。フランスの人類学者エマニュエル・トッドもトランプを支持していましたけども、トランプがそうした秩序を支持し、グローバルな企業や投資家の利益ではなくアメリカ国民のことを第一に考えていたことは間違いありません。

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