佐藤:ハゾニーはナショナリズムを旧約聖書(ユダヤ教)、グローバリズムを新約聖書(キリスト教)に結びつけるものの、核兵器の出現は後者にがぜん説得力を与えました。広島への原爆投下について、ウィンストン・チャーチルは「これこそキリスト再臨だ。彼は怒りの神となって戻ってきた」と語っています。つまりは聖書に予告された世の終わりが来たということですが、キリストの教えに従えば、そのあと全世界は「神の国」によって統一される。第2次大戦という「地獄の黙示録」が、ナショナリズムに引導を渡したのです。
アメリカに関してはもう手遅れという気がする
施:ナショナリズムに危なっかしいところがあるというのはそのとおりだと思います。ただ、私はハゾニーにならい、もう少しナショナリズムの味方をしたいですね。ネイションを構成する人々は相互に忠誠心や連帯意識を持つため、防衛や福祉政策などの共同事業が行いやすくなります。グローバル化が進むにつれて福祉も行いにくくなり、秩序も不安定化しています。ネイションに人々を結束させる力があることは間違いありません。少なくとも理念のレベルではそう言えます。
ただ、アメリカに関してはもう手遅れという気がします。先の大統領選挙を見ても、トランプ支持者たちは「あの選挙は不正選挙だ」として、民主的な選挙を信じなくなっています。
一方、バイデン支持者たちはトランプ支持者たちの主張を「それは陰謀論だ」と一蹴し、まったく相手にしていません。調査もしません。それだけでなく、マスコミをはじめとするバイデン支持者たちはトランプ支持者の言論を封殺しています。彼らのツイッターやユーチューブはどんどん閉鎖されていますし、トランプ自身もツイッターから永久追放されました。
私は情報収集の一環で、トランプ支持者たちが集うパーラー(Parler)というSNSを利用していましたが、これもしばらく使えなくなっていました。その間、アメリカの保守派は、アメリカのSNSから締め出され、彼らの言論が規制されない場を求めた結果、ロシアのテレグラム(Telegram)というSNSを用い情報交換するという皮肉な状態が出現していました。
トランプ派とバイデン派の対立は深刻で、もはや対話が成り立ちません。トランプ支持者の中には、テキサスがトランプ派の牙城ということもあって、テキサスに引っ越したがっている人がたくさんいるそうです。そういう意味では、アメリカのナショナリズムがどこまで有効に働くかは疑問です。
(構成:中村友哉)
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