アメリカは本当に「反グローバル化」に向かうか 新しい保守主義の潮流「ハゾニー主義」を探る

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中野:バイデンが勝利した昨年の大統領選挙では、トランプも7400万以上の得票数となりました。また、近年アメリカで躍進した左派の外交姿勢は、アメリカの軍事的関与や自由貿易への懐疑という点で、新しい保守主義の潮流と類似しています。言うまでもなく、アメリカの政治思想の変化は日本にも影響を及ぼします。そのため、私たちはハゾニーの議論をきちんと押さえておく必要があります。

バイデン政権に期待できるか

柴山:トランプ大統領はワンポイントリリーフだったけども、それこそ「トランプのジョーカー」のような存在で、ゲームの流れを大きく変えました。バイデンもトランプ政権の遺産をうまく利用しているところがあって、例えば中国との関係についても、「トランプ政権が課した関税をすぐに撤廃することは難しい」といったように、身内のリベラル派に批判されそうなことはすべてトランプのせいにしています。

柴山 桂太(しばやま けいた)/京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。専門は経済思想。1974年、東京都生まれ。主な著書にグローバル化の終焉を予見した『静かなる大恐慌』(集英社新書)、エマニュエル・トッドらとの共著『グローバリズムが世界を滅ぼす』(文春新書)など多数(撮影:佐藤 雄治)

ただ、この30〜40年の技術進歩とグローバル化で傷ついたアメリカの国民統合を、バイデン政権がどこまで回復できるかというと、大きくは期待できないのではないか。ここまで資本のパワーが解放されてしまうと、並大抵のことでは資本の動きを制限することはできないからです。

そもそもトランプも、中国に対して高関税を発動しましたが、それでも中国の対米貿易は簡単に減らない。コロナ禍でむしろ増えたくらいです。海外に出ていった工場をアメリカに呼び戻すという話にしても、資本はいくらでも規制を迂回できてしまう。トランプの「実験」でわかったのは、関税を上げたくらいでは、行きすぎたグローバリゼーションを元に戻せないということです。

このことはブレグジット後のイギリスを見るとよくわかります。イギリスはすったもんだの挙げ句、ようやくEUから抜け出しましたが、そのあと彼らが手をつけたのはTPPへの参加申請でした。EUから主権を取り戻したうえで、別のかたちで自由貿易を推進するということになっている。

グローバリゼーションの1つの問題は、国境を自由に移動できる資本にとっては有利、国内にとどまらざるをえない労働者にとっては不利、というものです。ブレグジットを後押ししたのが旧産業の労働者たちだったことを考えると、イギリスがTPP参加申請したというのは、皮肉な話です。結局、イギリスもグローバリズム路線から転換できていないのです。

現在、バイデン政権は通商政策を後回しにし、新型コロナウイルス対策に注力しています。途方もない規模の財政出動を行っていて、追加経済対策は1.9兆ドル(日本円で200兆円)で、GDPの10%にも及びます。コロナ禍で生活苦に陥った人々を救済するという面だけでみれば、これは正しい政策と言えるでしょう。

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