日本が何度もコロナ対策に失敗する本当の理由 「短期決戦思考が根本原因」というのは間違い

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こう考えてくると、現在の新型コロナウイルス対応に日本が失敗している原因も見えてくる。

それは、コロナ対応に明確な目的がないからである。目的がないから「オリンピックのために対策をしている」と揶揄されても明確に反論できない。目的がないから、感染者数が減っても緊急事態宣言を解除せず、増え始めているのに解除したりする。もちろん、政府は医療体制など複数の指標をもとに総合的に判断しているというが、私に言わせれば、その場の雰囲気で場当たり的に決めている。これは目的がないからである。

医療的なコロナ危機ではない日本

では、なぜ目的がないのか。

それは、日本では医療的なコロナ危機ではないからである。少なくとも欧米の危機とは次元の違うトラブルなのである。

欧米のように真の危機であれば、そもそも「コロナか経済か」などという議論になりえない。とにかくコロナである。そのなかで、経済に問題が出たら、それを経済対策で対処する。したがって、コロナはコロナの専門家の意見が支配し、経済は中央銀行など経済の専門家の主導で対策が打たれる。

政治は社会対応で、誰を優先するか、どれだけ助けるか、という問題になるので、財政出動も真に政治問題となり、政治の専門家として政治家がリーダーシップをとるのである。医療・経済・政治の3つの分野の専門家がそれぞれ力を発揮し、そのなかで、首相あるいは大統領が社会を導くのである。

一方、日本はトラブルとなると、何を優先するかで迷う。もめる。昨年の緊急事態宣言の時は、本当は危機ではなかった。だが人々が勝手に危機とみなしたために「とにかくコロナ対応」ということになった。そして、その結果経済に支障が出れば、政治的なバラマキで対処した。それに不満を持っていた菅義偉氏が首相になった。

昨年末からの急激な感染拡大は、1回目の緊急事態宣言発出時よりも、コロナそのものは、より深刻なトラブルだった。だが依然として危機とまでは言えなかった。そこで菅氏は首相になったこともあり、自分の主張を打ち出した。コロナの専門家については「危機を煽っている」とみなし、言うことを聞かず、間違ったブレーンの言うことを聞き、間違った政策を打って、結局、深刻なトラブルを危機寸前にまで深め広げてしまった。

しかし、それでも崩壊の危機までには至っていない。だから菅首相は政治家としては、今は危機手前の段階であり知事たちが「政治闘争」を仕掛けてきたときも、それに応じる余裕があると思ってしまい、目的が混乱したまま迷走した。「とにかく支持率を上げる」のか、「知事たちの言いなりにならずに政治的に戦うのか」、どちらかはっきりしないままに混乱した。

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