俗に「油を売る」という表現がある。無駄に時間をつぶす行為を指すのだが、油を売る代金がマイナスになる場合があるとは、想像したことがなかった。4月21日のニューヨーク市場の原油先物取引(5月渡)は、大幅なマイナス価格で大引けた。
原油価格暴落の「金融システムへの影響」が心配だ
主な売り主体はファンドのようだ(ETF=上場投資信託との情報も)。
顧客からの解約に応えるためか、損切りか、現物を引き取る貯蔵施設などのキャパシティーがないか、何れかのやむを得ない事情で原油先物の買い建てポジションを手仕舞うために投げ売りしたようだ。
ここまでは、相場の世界ではよくある話だ。しかし、買い向かう参加者がなかなか現れなかったために、マイナス圏まで下落しないと値が付かない事態に陥った。「お金を払うから、原油を引き取って欲しい」という内容の取引なので、ありうるケースではあるのだが、ひどい話だ。
普通なら、価値のある商品を手に入れるためには何らかの対価を払っていいと誰でも思う。十分安くなれば買う。しかし、市場参加者が手配できる原油貯蔵施設のキャパシティーが一杯で、5月渡しの原油の現物を受け入れが難しくて、マイナス価格が発生したという。コロナウイルス問題で経済活動が急減速したために、需要が急減して在庫が溜まったことが背景にあった。
不幸なことに日本に住むわれわれはデフレに馴染んでいるし、近年先進国では中央銀行の政策で「マイナス金利」が発生しているので、大概のものがマイナスになっても驚かなくなっているのだが、「マイナスの原油価格」には驚いた。
原油価格は、翌日には1バレル=10ドル台前半に戻ったのだが、1月には65ドルを付けていたのだから、この価格は「大変なこと」だ。
日本は原油の輸入国なので、原油価格の下落は、ガソリン価格の下落や、電気料金の下落(スピードが遅いけど)などにつながる経済的好材料のはずなのだが、変化がこれだけ急だとのんびり喜んではいられない。端的に言って、エネルギー関連の融資や投資の損失が、金融システムに与える影響が心配だ。
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