「数学でつまずく人」が知らない日本語の使い方 数学の学びで極めて重要な「すべて」と「ある」
最近、いろいろなところで「自分は文系の数学は学びましたが、AI時代を視野に置いて、機械学習の基礎となる数学を学ぶことは可能でしょうか」という質問を見聞きする。一般の回答としては、すでに学んだ数学の内容を詳しく尋ねるようなものが多いが、筆者ならば「『すべて』と『ある』の用法、とくにそれらの否定文をよく理解していることが大切ですよ」という回答をするだろう。
本稿では、それに関しては主に後半で説明するが、とりあえず「すべて(all)」と「ある(some)」の用法が、算数・数学教育全般に深く関わっていることを述べよう。これに関しては拙著『AI時代に生きる数学力の鍛え方』(東洋経済新報社)で詳しく書いてあるので、参考にしていただければ幸いである。
あまり注意が払われない「すべて」と「ある」
最初に留意していただきたいことは、英語圏の子どもたちならば生まれながらにして「all」と「some」の使い方を身につけながら育つ。一方、日本人が海外旅行をして困ることの1つに、それらの単語が絡んだ否定疑問文の質問をされることがある。
学校教育の英語で、「否定疑問文に対して『NO』とか『YES』を使って答えるときは注意が必要」と、教えられたことを思い出す読者も少なくないだろう。
そのような背景があるように、日本の算数・数学教育では「すべて」と「ある」の用法について、あまり注意が払われていない。いくつかの事例を挙げよう。
筆者は小学校での出前授業もたくさん行ってきたが、ある学校で「この学校の生徒数は約400人です。そこで、1年は365日か366日なので、この学校のある2人の生徒は誕生日が同じですね。このような性質を『鳩の巣原理』と言います」と最初に発言したとき、ある生徒から「先生、だったら、僕と誰が同じ誕生日なんですか」と質問され、「僕と誰かではなく、誰かと誰かなんだよ」と答えたことが懐かしい思い出となっている。
そして「ある」の用法を理解してもらってから、「鳩の巣原理」の応用として次の話をして楽しんでもらうことがある。現在生きているある2人の日本人は、誕生日の月と日、生まれた時刻の時と分、血液型、住所地の都道府県名のすべてが一致する。
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