プロ野球「全く儲けない異常体質」が許された訳 「ジャイアンツ頼み」のビジネスモデルは限界だ

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かつて、プロ野球球団は、親会社の「宣伝広告媒体」といわれてきた。1954年(昭和29年)の国税庁通達により、子会社である球団への赤字補填は「広告宣伝費」として損金処理ができる。本来なら、赤字補填のような「財」の移転を伴わない資金の移動は「贈与」と見なされ、課税対象となる。

ところがこの通達により、球団事業で出した赤字は、本業の利益に対する税負担の軽減へと転換することができるのだ。戦後直後の日本に、プロ野球を定着させる。親会社には“タニマチ”としての役割を担ってもらう代わりに、税制上のメリットを供与したというわけだ。

だから、野球で無理に稼がなくてもいい。むしろ、野球なんかで稼げるはずもない。それが昭和の、そして20世紀の日本野球界における“通説”でもあった。

戦後の経済復興、1960年代から70年代にかけての昭和の高度経済成長期。80年代後半から90年代序盤にわたる平成のバブル経済期。右肩上がりで成長する日本経済と足並みを揃えるように、隆盛を極めてきた日本のプロ野球。それは、親会社という潤沢な“米櫃”があってのものだった。赤字でも、親会社に埋め合わせてもらえる。

その“暗黙の了解”は、ビジネスの観点から見れば異常な姿ともいえた。

「巨人中心」のビジネスモデル

2004年(平成16年)に起こった「球界再編騒動」では、そうしたプロ野球球団の経営における“ひずみ”が、一気に噴出したような観があった。

現在の市場規模は大きすぎる。これを適正サイズにするために、まずは1リーグ10球団、最終的には8球団へと「縮小均衡策」を採るのが、経営サイドの狙いだった。その“先駆け”が、オリックスと近鉄の球団合併だった。

この計画とオーナーたちの目論見が明るみに出ると、選手会側は猛反発した。シーズン中にもかかわらず、経営者サイドと日本プロ野球選手会による「労使交渉」が幾度となく繰り返された。

選手会側は、合併の当事者となったオリックス、近鉄の両球団に対し、球団経営による赤字が、一体どれくらいの金額なのかを具体的に示す財務資料などの提示を求めた。しかし、オーナー側から提示されたのは「収支決算」のみだった。

2003年度(平成15年)の赤字額は、近鉄が約38億8000万円、オリックスは約37億円。年間経費は、近鉄が約84億4700万円、オリックスは約71億6100万円。

ただ、その内訳に関しては「球団は上場企業でないから」と公表されなかった。経営実体は、事実上“ブラックボックス化”されていたのだ。

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