国産の新型コロナ治療薬への期待が高かったためなのか、この承認見送りにはネット上などで批判が相次いでいる。中には「厚生労働省からの天下りを受け入れない富士フイルム富山化学に対する嫌がらせ」などという陰謀論めいた言説も飛び交っている。
しかし、厚労省はその理由について、薬食審では提出されたアビガンの臨床試験が「単盲検試験」だった影響を慎重に見極めようとの意見が根強く、そのことが継続審議の大きな要因だったと説明しており、報道でも触れられている。
ただ、一般人の多くは「単盲検試験」という言葉自体初耳だろうし、一般紙の説明もややわかりにくいものが多い。そこで「単盲検試験」とはどんなもので、今回のアビガンの承認審査でどのような影響を及ぼしたかを詳述したい。
新薬候補の臨床試験はどのように行われる?
この単盲検試験とは何かを説明するためには、新薬候補となる成分の臨床試験がどのように行われているかを知らなければならない。まず、ある病気に対する新薬候補の製造承認を申請する際には、あらかじめヒトでの臨床試験で一定の有効性や安全性を示す必要がある。臨床試験は第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験、第Ⅲ相試験と3段階に分けられているが、もっとも重要なのが最終段階の第Ⅲ相試験である。
第Ⅲ相試験では、その病気に対してこれまで最も一般的に使われていた薬(標準治療薬)あるいはプラセボ(偽薬)と新薬候補の効果や安全性を比較する必要がある。プラセボは一般にヒトの体内に入ってもほぼ薬効も害もないもの、具体的には経口薬の場合はデンプンなどを錠剤のように成形したもの、注射薬の場合は生理食塩水が使われる。ただ、かなり進行したがんなど、何らかの治療を行わなければ死に至る可能性が高いケースでは、無治療となるプラセボ使用は倫理上問題があるため、標準治療薬が用いられる。
そのうえで臨床試験に参加した患者を2グループに分けて、一方のグループには新薬候補、他方のグループには標準治療薬かプラセボをそれぞれ投与して、新薬候補を服用した患者で標準治療薬やプラセボを上回る効果などがあれば、そのデータを提出して審査を受けることで規制当局から製造承認を取得できる可能性が出てくることになる。
そしてこの比較のための臨床試験の実施方法には▽二重盲検試験▽単盲検試験▽非盲検試験の3種類がある。
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