アビガンが今になっても承認下りない根本理由 どんな臨床試験が行われたか知っていますか

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くどいようだが主要評価項目を改めてすべて箇条書きにする。

(1)体温の改善(37.4℃以下)
(2)酸素飽和度の改善(96%以上)
(3)胸部画像所見が最悪の状態から改善
(4)PCR検査2回の陰性

(1)~(3)が満たされたうえで、(4)が満たされることが条件である。ここで医師が誰にアビガンが投与され、誰にプラセボが投与されたかを知っていることでバイアスが入る余地があるのか?

結論をいえば、(3)の胸部画像所見の判定はその可能性があるのだ。新型コロナによる肺炎の状態確認では、一般人が「レントゲン写真」と呼ぶ単純X線画像よりもCT(コンピューター断層撮影装置)画像が使われることが多い。

ただ、あくまで医師が肉眼で「ああ、肺炎の起きている面積が小さくなったな」など判定する。現在のCTでは肺炎部分の面積変化を計測して数字で表すこともできなくはないが、通常の診療ではそこまでのことは行わない。つまり厳格な科学的評価という関連からすれば、この手法はバイアスが入る余地があるということだ。

また、副次評価項目の7段階スケールの改善というのもバイアスが入りやすい。例えば、明確な死亡という状態は医師によって判定が異なるものではなく、極端な話を言えば医学的に死亡と認定された時点から一定時間が経過した状態ならば一般人でもわかる。

「退院」には医師のバイアスが入り込むことも

ところが「退院」となると、医学的に厳格な退院基準が決まっている場合ばかりでもなく、またそういう基準があったとしても、患者本人の事情などを考慮して「まだ軽度の症状はあるが、本人の強い希望もあるし、まあ退院しても問題ないだろう」という形などで医師の判断にバイアスが入り込むこともある。

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つまり今回のアビガンの臨床試験は有効性に関する2つの評価項目はいずれも医師のバイアスが入る可能性が否定できないものなのである。バイアスを極力排除できたときに短縮効果が3日より短くなるのか、それとも逆に長くなるのかは現時点ではわからない。ただ、もし厳格な評価で短縮効果が3日より短くなれば、前述の「統計学的な有意差」が認められない、つまり科学的にはアビガン投与とプラセボ投与による実質無治療とに差がないという最悪の結論になる恐れもあるのだ。

ただ、原因はほかにも考えられる。後編ではアビガンには付き物の「催奇形性」の問題や審査のプロセス、海外での臨床結果などについて詳しく解説したい。

後編:アビガンが承認下りないのも不思議でない根拠(2021年2月13日配信)

村上 和巳 ジャーナリスト

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むらかみ かずみ / Kazumi Murakami

1969年宮城県生まれ。中央大学理工学部卒業後、薬業時報社(現・じほう)に入社し、学術、医薬産業担当記者に。2001年からフリージャーナリストとして医療、災害・防災、国際紛争の3領域を柱とし、『週刊エコノミスト』、講談社Web「現代ビジネス」、毎日新聞「医療プレミア」、『Forbes JAPAN』、『旬刊医薬経済』、「QLife」、「m3.com」など一般誌・専門誌の双方、ネットで執筆活動を行う。2007~2008年、「オーマイニュース日本版」デスク。一般社団法人メディカルジャーナリズム勉強会運営委員(ボランティア)。著書に『化学兵器の全貌』(三修社)、『ポツダム看護婦(電子書籍)』(アドレナライズ)など、共著に『がんは薬で治る』(毎日新聞出版)、『震災以降』(三一書房)など。

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