そして臨床試験ではあらかじめ決められた評価項目があり、患者に投与後にこれら評価項目の変化を医師が記録して提出。最終的に参加した患者のデータにある時点でロックがかけられて変更できない状態になる。この後、データを集約して統計解析が行われ、それが終了して初めて医師や患者は誰に何が投与されたかが明らかにされる仕組みだ。
繰り返しになるが、今回のアビガンの臨床試験(第Ⅲ相試験)は、医師が誰に何が投与されたかを知っている単盲検試験である。
新型コロナに対するアビガンの臨床試験の概要とは?
そこで重要となるのが今回、アビガンの新型コロナに対する臨床試験の詳細である。現在までに富士フイルム富山化学側が明らかにしている概要では、新型コロナウイルスのPCR検査で陽性となり、重篤ではないが胸部画像での肺病変(いわゆる肺炎)や37.5℃以上の発熱がある20歳から74歳までの入院患者156人が対象となっている。
これらの患者全員に一般的な肺炎治療を行いながら2つのグループに分け、1つのグループにはさらにアビガン、もう1つのグループにはプラセボをそれぞれ追加投与して効果や安全性を比較している。ちなみに冒頭で説明したように単盲検試験であるため、医師はアビガン、プラセボがそれぞれ誰に投与されたかを知っている。
なぜベースにわざわざ標準的な肺炎治療を施し、単純にアビガンとプラセボで比較しないのかといえば、この点はまさに倫理的な問題と円滑な臨床試験の実施のためと推察される。臨床試験対象となっているのは重い状態ではないとはいえ、すでに肺炎を起こしている新型コロナ患者である。新型コロナの場合は、時にわずか数時間で急激に重症化し、患者全体の2%、つまり50人に1人が死に至る。このような病気でプラセボしか投与していない、すなわち実質無治療は倫理的に問題がある。
また、臨床試験実施に当たっては、参加患者から文書同意の取得が必須だが、プラセボのみ投与で無治療となる可能性があるスキームでは患者が同意をしたがらない可能性は少なくないうえ、医師側もそのような臨床試験への参加を患者に依頼しにくい。結果として必要な参加者が集まらず、臨床試験が実施できない恐れもあるからだ。
そしてこの臨床試験では3つの評価項目を設けている。最も優先度の高い主要評価項目は「症状(体温、酸素飽和度、胸部画像所見)の軽快かつPCR検査で陰性化するまでの期間」、これに次ぐ副次評価項目は「有害事象(副作用)」と「7段階スケールによる患者状態推移」である。
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