新型コロナウイルスなど、感染症危機に関する国家安全保障や危機管理の側面からの考え方や、感染症危機をめぐる国際政治について紹介する本連載。今回は、前回(日本が「国産ワクチン」開発できていない背景)に続き、日本でワクチンや危機管理薬品で後れを取っている理由や、これを解決するのに必要なアクションを考える。
日本の製薬企業に技術力がないわけではない
将来、新たな感染症危機が発生した場合、各国間による危機管理医薬品の研究開発競争や囲い込みは、今回の新型コロナウイルスより熾烈になる可能性が高い。前回説明した、危機管理医薬品やワクチン開発企業への投資などを行うアメリカの保健福祉省生物医学先端研究開発局(BARDA)のような機関を創設しなければ、大きな危機に耐えられないだろう。
ただし、そうした機関ができたからといって、問題が解決するわけではない。BARDAは、あくまで技術に対する目利きと投資を行う機関であり、ベンチャーキャピタルと同じだ。スタートアップ企業がなければベンチャーキャピタルの存在自体が無意味なのと同様、危機管理医薬品の研究開発を実際に行う民間企業や学術機関がなければ、そもそも話にならない。
民間企業にとっては、現時点で市場が存在せず、収益の見込みのない危機管理医薬品の研究開発など、何の魅力もない。それにもかかわらず、国家安全保障のために危機管理医薬品の研究開発を行ってもらうためにはどうしたらいいだろうか。
それには、政府が民間企業の経済行動を誘導するプル型インセンティブもを充実させることが重要だろう。
そもそも、日本の製薬企業に技術力がないわけではない。医薬産業政策研究所によれば、2019年の世界全体における医薬品売上高上位100品目について、各医薬品の基本特許を出願した企業を国籍別にみると、日本は、アメリカとスイスに次ぐ3番手である。2018年はスイスと並び2番手だ。アメリカは圧倒的な医薬品創出国だが、近年はスイスと日本が2位争いを続けているという傾向にある。
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