ヨーロッパの薬事審査・承認機関である欧州医薬品庁(EMA)が有する「EU-M4all(EU-Medicines for all/旧称:Article 58)」という制度は、EU域外での使用が想定される医薬品について、EMAがWHOと合同で審査し、「科学的審査に基づいた推奨」を与える仕組みであり、WHOのPQ取得審査を促進させるベースとなる役割も持つ。
感染症領域の医薬品では、アフリカ睡眠病の治療薬に適用された実績がある。日本の薬事審査・承認機関である厚労省と、独立行政法人である医薬品医療機器総合機構(PMDA)も同様の制度を創設し、日本の製薬企業によるWHOのPQ取得を後押しすべきだろう。
間接的インセンティブとしては、アメリカ食品医薬品局(FDA)が有する「優先審査バウチャー(PRV)」という制度が参考になる。PRVとは、製薬企業が、対象となる希少疾患(感染症を含む)の新薬承認を取得することで、自社の他領域の新薬の承認申請時に優先審査権(6カ月間)を付与する仕組みだ。
あらゆる開発品目に対して使用することが可能であることに加え、この権利を第三者に譲渡(売買)することも可能であるため、企業活動にとって大きなメリットとなる。
「政官財学」の連携が必要
新型コロナ危機における日本開発が遅れている状況を踏まえ、将来の未知の感染症危機に備えるために、日本における危機管理医薬品の研究開発、そして製造基盤を充実させる必要がある。
その際に、BARDAのような機関による投資といったプッシュ型インセンティブと、日本政府による薬事審査・承認に関するプル型インセンティブは、車の両輪である。両方なければ、日本の危機管理医薬品の充実は不可能だろう。
これは、製薬企業や厚生労働省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の努力だけではなしえない。外務省によるWHOやアジア各国への働きかけも必須だ。また、国会による法制化の後押しも必要となるだろう。日本国民の命を守るために、日本の安全保障のために、政界・官界・財界・学界を挙げて、感染症危機に対抗する武器開発を真剣に考えるべき時である。
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