しかし、その内訳を見ると、日本が世界の医薬品開発の潮流に出遅れてきていることがわかる。これまでの医薬品は、化学合成によって製造される単一構造の低分子化合物である「低分子医薬品」が主流であった。
しかし、低分子化合物の有効成分の探索がピークを越えて新たな発見が困難となってきた。結果、近年は人工的な化学合成による薬剤の開発ではなく、バイオテクノロジーを用い、もともとヒトの体に備わるタンパク質のような複雑な構造を持つ高分子化合物について、当該タンパク質の設計図であるDNAやその転写物質であるmRNAを培養細胞や細菌に組み込んで作らせ、精製するなどして薬剤とする「バイオ医薬品」にシフト。
上記の日本の特許の内訳では、低分子医薬品が約8割を占めているのに対し、スイスでは約9割がバイオ医薬品である。
ワクチンは典型的なバイオ医薬品
バイオ医薬品は、従来の低分子医薬品とは製造工程が異なるうえ、低分子医薬品のように化学合成反応による大量生産ができない。製造加工が特殊で難易度が高く、大規模な設備投資が必要となる。そのため製造費用も高い。
ワクチンは典型的なバイオ医薬品ある。しかし、日本では、産業構造の転換へのハードルといった技術的理由に加え、衛生環境が向上して土着の感染症自体が減少し、高齢社会の先頭を走っているという、医薬品マーケットの需要を変化させる理由が存在する。
結果、医薬品の研究開発は非感染症(生活習慣病、がん、認知症など)に向かい、ワクチンや抗生物質といった感染症領域への大きな投資はなされてこなかった。そもそもの問題として、感染症に関する日本国内の市場規模が限定的であるため、感染症領域の医薬品開発は儲からないと考えられているのである。特にワクチンは、HPVワクチンに代表される訴訟リスクをおそれて官民ともに忌避されてきた。
感染症領域の医薬品研究開発を積極的に実施する企業を増やし、危機管理医薬品の国内の研究・開発・製造能力を高めるためには、そこに内在する障壁を越えてでも参入したいと思えるほどのインセンティブを付与せねばならない。
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