新型コロナウイルスなど、感染症危機に関する国家安全保障や危機管理の側面からの考え方や、感染症危機をめぐる国際政治について紹介する本連載。今回は、自国でワクチン開発をできないことのリスクや、開発を促すためにどうしたらいいかを考える。
鬼殺隊は「珠世」を内製化
2020年に大ヒットした、鬼殺隊と鬼の死闘を描く「鬼滅の刃」。鬼殺隊は、彼らの武器である日輪刀の斬撃だけでは、鬼の親玉である鬼舞辻を倒せなかった。自身も鬼でありながら鬼舞辻に敵対する珠世が作り上げた4種の薬(人間返りの薬、老化の薬、分裂阻害の薬、細胞破壊の薬)が、決定的な役割を果たした。
同じ時、現実の日本。現代の鬼殺隊ならぬ感染症危機管理を生業とする人々が、自らの身の危険を顧みず日々奮闘し、新型コロナウイルスという悪役に対して、4種の手段で決戦を挑もうとしている。アメリカのファイザー/ドイツのバイオンテック、アメリカのモデルナ、イギリスのアストラゼネカ、そして新型コロナワクチン国際共同購入枠組み(COVAXファシリティ)という4つのチャネルを通じて獲得するワクチンだ。
厚労省など関係者の尽力により、2月中旬から接種が開始されるとのことだ。しかし、これらの手段はすべて外国産。日本企業による新型コロナワクチンの研究開発は遅れている。
鬼舞辻を討ち果たしたのは、本来は対立する立場であるはずの鬼殺隊と鬼である珠世とのコラボがもたらした結果だ。しかし、いつの時代にも珠世がいるとはかぎらないし、危機の際に手を差し伸べてくれるともかぎらない。珠世の能力は、本来であれば、鬼殺隊が内製化すべきものなのだ。
日本はこうした脅威に対する武器を、自国で内製化できず、外国に頼らなければならない状況にある。パンデミック級の超ド級の感染症危機は約10年に1度の割合で発生しているが、それより規模は小さくとも、日本に何らかの脅威を及ぼす感染症危機は、2〜3年に1回の割合で発生しており、頻度が高い。それにも関わらず、感染症危機を引き起こす脅威に対抗する武器を自国でまかなえないという状況は、あまりに心許ない。
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