日本が「国産ワクチン」開発できていない背景 EUによる輸出規制で日本が困るという意味

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一方、日本には今のところ、BARDAのような機関はないが、政府は2014年のエボラ出血熱を契機として設立された官民の国際機関「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」に拠出している。モデルナにも投資していたCEPIの価値は、将来のDisease Xへの危機管理医薬品に関するプラットフォームテクノロジーの研究開発に投資している点にある。

プラットフォームテクノロジーとは、未知の感染症に対抗するワクチンや予防薬の開発を加速化する基盤技術の総称だ。プラットフォームテクノロジーは、異なる病原体であっても、その病原体を構成する遺伝子情報やタンパク情報を挿入することで、どのような病原体に対しても即座に対応することを可能にする。これにより、ワクチンや予防薬の迅速な開発が可能となる。

CEPIが投資する3つのテクノロジー

CEPIはこの技術を使用することで、いかなるDisease Xでも発生から数カ月以内にワクチンや予防薬の安全性試験を実施することを目指している。最終的には、発生から数週間以内に「ジャスト・イン・タイム」でワクチンなどを作り上げる体制を確立するとしている。

CEPIが投資するプラットフォームテクノロジーは現在、ワクチンプリンター、分子クランププラットフォーム、自己複製RNAワクチンプラットフォームの3つ。それぞれドイツのキュアバック、豪州のクイーンズランド大学、イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンが開発しているが、日本の民間企業や学術機関は含まれていない。

CEPIは、世界の感染症危機管理体制を向上させる上で重要な役割を担っており、日本政府も資金の拠出や人材の派遣等を通じ、CEPIに対して一段と深く関与するべきだろう。

ただし、 CEPIの投資によってプラットフォームテクノロジーが開発されたとしても、CEPIはあくまで世界人類全体のための機関であり、日本の国益のために直接的に貢献するというわけではない。したがって、将来の感染症危機から日本国民を守るためには、日本にもBARDAのような機関を創設し、日本企業による危機管理医薬品の研究開発を促進する必要があるのではないだろうか。

日本には、公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)という、マラリア・結核・顧みられない熱帯病に対する治療薬・ワクチン・診断薬の開発を推進する国際的な官民ファンドが存在する。

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