日本が「国産ワクチン」開発できていない背景 EUによる輸出規制で日本が困るという意味

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したがって、危機管理医薬品の研究開発は、政府が主導せねばならない。具体的には、危機管理医薬品のシーズを有する民間企業や学術機関に対して資金を提供し、研究開発を後押しする入り口論(プッシュ型インセンティブ)、および最終的に開発に成功し、製造されたものを政府が備蓄という形で買い取るという出口論(プル型インセンティブ)に立った方策が必要となる。

アメリカは、感染症危機管理が国家安全保障にとって死活的に重要であるという考えに基づき、危機管理医薬品の研究開発に対し、継続的に投資してきた。アメリカでの研究開発投資をリードするのは、保健福祉省生物医学先端研究開発局(BARDA)である。

その結果が今回のモデルナのワクチンの躍進である。国家安全保障の観点から感染症危機管理政策を推進するというアメリカの戦略の正しさが証明されたと言えるだろう。

BARDAとはどんな組織なのか

「21世紀の公衆衛生上の脅威から命を救い、アメリカ人を守る」を政策コンセプトとして掲げるBARDAは、民間企業や学術機関と連携し、感染症危機から国民を守るワクチンや医薬品開発を行う機関である。それは単に、民間企業などへの研究開発資金を補助するだけにとどまらない。担当者は、「BARDAは、感染症危機管理を含む公衆衛生領域の危機管理医薬品に特化した、政府出資のベンチャーキャピタルだ」と説明する。

BARDAでは危機管理医薬品となり得る技術シーズを持つ民間企業に投資し、株式を取得するほか、バイオ分野のアクセラレーターとも連携。投資先企業の成功により最終的に投資が回収できれば、公的資金に依存せず再投資を行う資金を得ることができ、持続的な投資サイクルを形成することができる。

「感染症危機管理を含む公衆衛生領域」と述べる理由は、BARDAが、感染症や生物由来の毒物といった生物学的脅威に加え、化学兵器や放射性物質の拡散など、危機管理オペレーションが必要となる公衆衛生上の脅威全体を対象としているからである。BARDAは、公衆衛生分野の防衛装備庁とも言えるのだ。

BARDAはまた、アメリカ食品医薬品局(FDA)とも連携し、アメリカ政府全体として危機管理医薬品を開発する体制を敷いている。BARDAによる投資を通じて開発され、FDAに認可された危機管理医薬品は、2007年から2020年までの間に50以上に及んでいる。

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