「知らなかったでは許されない!」というのが、この判決のメッセージです。だからこそ私は、この事件の経緯は高校の必修科目で習うべき内容だと思うのです。女性差別や人種差別が間違っているのと同様に、同性愛者の差別についても、「知らなかった」はNGだと言っているのですから。これは裁判所からの、社会に対するたいへん重いメッセージです。「知らなかったではすまされない」というのに、なぜ今まで学ぶ機会すらなかったのでしょう、判決が1997年のことですよ。
学生さんたちも「将来、責任のある立場に就く可能性のある人間として、こんな重要な判決について知らなかったのは本当に恥ずかしいと思うし、高校の教育のあり方を考えてほしい」と言っています。
一方で「この400人の教室の中にも、最低限10人くらい、同性愛者・両性愛者や性同一性障害者がいるはずです」と言うと、「そんなことはないでしょ……」という人がたくさんいます。でも、その回の感想の紙では確実に10人前後の人が、「実は私は……」とカミングアウトしてくれます。
LGBTは人口の5%前後いると言われているので、中学校のクラスにひとりはそういう人がいたと考えてみてください。「そんなはずは」と思うのだとしたら、それはあなたを含めた周囲の人間が、彼女ら・彼らが自分の性的指向を言い出すことができない雰囲気を作っていたからなのです。「ホモっぽい」などとからかいながら、あなた自身が意図せずに「加害者」であった可能性はありませんか?
友人からカミングアウトされたら?
少し角度を変えてみましょう。あなたが、仲のよかった同性の友人から「実は私は同性愛者で……」と伝えられたとします。あなたならどう答えますか? 「大丈夫だよ、そんなの関係ないから」と善意で言ってしまったりしませんか? その言葉が善意からくるものなのはわかりますが、それが相手に「ざらっ」とした違和感を与える可能性があることをわかってもらえますか?
たとえばあなたが何らかの複雑な家庭環境のために、付き合いを深めることにためらいがあって、相手に「実はいろいろ問題があって……」と告白したときのことを考えてみてください。あるいはあなたが外国に暮らしていて、誰かと深く付き合おうかなというときに、「私は日本人だから、いろいろあって……」と伝えようとした状況を考えてみてください。
そこで「そんなの関係ないから」と言われたら、どんな気持ちになりますか? 相手は100%善意で言っているのでしょうが、「そこ、スルーしないで!」と思いませんか? こっちは相談したいことがいろいろあるから、わざわざカミングアウトして言ってるのに……!
高裁判決は「知らなかったでは許されない」と断じています。かといって私たちは、世の中のありとあらゆる差別や社会問題について、知っているわけではありません。だとすれば、どうすればいいのでしょう?
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