「限定的な自粛」の効果が著しく薄い根本理由 変異種の感染拡大ペースについていけていない

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「10倍〜1万倍のレンジで高くなる」と、研究にあたったイングランド公衆衛生局の臨床ウイルス学者で、イギリス政府の医療顧問を務めるマイケル・キッド氏は語る。鼻や喉に存在するウイルスの量が多くなれば、それだけ呼吸や会話、せきやくしゃみなどで空気中に排出されるウイルスの量も多くなる。

接触追跡の分析によれば、従来のウイルス株では感染者と濃厚接触した人、つまり6フィート(約180センチメートル)以内の距離で15分以上過ごした人のおよそ10%が、自身が感染する量のウイルスを吸い込んでいた。「変異種では、この割合が15%になっているかもしれない」とベッドフォード氏は言う。「現時点で感染リスクの高い活動は、これまで以上にリスクが高くなるということだ」。

これまで23カ所の変異を確認

研究は現在進行形で続いている。

問題の変異株は1年前に中国の武漢で広まったウイルス株に対し、23カ所の変異があることが確認されている。だが、そのうちの17カ所は最も新しい親株から分化したときに突如として現れたものだ。

ウイルスにとっては感染者の1人ひとりが変異を発生させる坩堝(るつぼ)となる。感染者の中でウイルスが増殖を繰り返しているうちに変異が起こるのだ。世界のコロナ感染者数が8700万人を突破する中、変異は科学者が当初想定したペースを上回って進んでいる。

変異の大多数はウイルスに利点をもたらすものではなく、自然に淘汰されていく。しかし適応力や感染力を高めた変異株は生き残り、広がっていく可能性が高い。

新しい変異株の17カ所の変異のうち、感染力の上昇をもたらした変異は少なくとも1カ所ある。そのメカニズムはまだ解明されていないが、ヒトの細胞表面のタンパク質とより強く結合するために感染力が高まったことを示唆するデータもある。

(執筆:Apoorva Mandavilli記者)
(C)2020 The New York Times News Services

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