でも、いくら教えても反感は消えない。それは英国の調査データでも出ています。「不安」は、どうも知識とは違うところから生まれる。そこで、「やっぱり必要なのは、理解を掘り起こす対話ですね」「双方向の関与が必要ですね」と、だんだんモデルが変わってきた。
例えば、サイエンスカフェのようなコミュニケーションの場を通して互いが関わるモデルです。「科学者も情報を提供するし、皆さんもどんどん意見を」となった。一般人の声を取り入れて研究テーマを調整するという試みもあります。
――サイエンスコミュニケーションの重要性は、コロナ禍や福島原発事故で再認識されています。
コロナ禍はグローバル危機ですから、国内外から毎日さまざまな情報が入ってくる。そんな中、感染症分野のスペシャリストたちは、YouTubeやTwitterなどいろいろな方法で社会へ直接情報を出してくれました。
「8割おじさん」として知られる西浦博先生(京都大学大学院医学研究科教授)の論も、非常に説得力があると受け止められました。外国の感染者数から試算して何も対策をしなければ約42万人が被害に遭う、という論などがそれです。
SNSのパワーはすさまじい
ウイルスのような、サイエンスの新しい問題についての情報やその時々の結論については、全員の見方が一致することはありません。必ず異なるものがある。それが今回は何人かの論にスポットライトが当たり、社会への強いメッセージとなったわけです。
それにしてもSNSのパワーはすさまじい。誰も精査できない情報が瞬時にどんどん拡散していくわけですよね。こういう異常、あえて異常と言いますが、パンデミックのような生死を分ける緊迫の状況下で、メディアプラットフォーム上で機能するイマージェンシーモデルは、これまでのサイエンスコミュニケーションの中では確立されてきませんでした。
私たちが研究してきたサイエンスコミュニケーションのモデルや方法論は、実は往々にして平時用のものだったということです。
福島原発事故のときと同じです。人々が今ほしいのは、科学ではなく、「どうすれば安全なのか」という自分ごとの情報です。裏打ちとなる科学情報がまだ合意のないものであっても、科学と名のつくものがあれば人は安心する。そういうサイエンスコミュニケーションの実情が、コロナ禍では見え隠れしました。
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