聴衆の意表を突いた、キャメロン英首相 田坂広志 多摩大学大学院教授に聞く(4)
当然のことながら、ダボス会議に出席している世界のトップリーダー達の注目が集まります。そして、その注目は、そのまま、キャメロン首相にとっては、相当なプレッシャーだったでしょう。
「彼は、どのようにして、このデビュー戦を飾るか?」
誰もが、その興味を持って、彼の基調講演に注目していました。
しかし、彼の政権は、まだスタートしたばかり。実績は無い。経験を重ねた人物の重厚感で勝負する年齢でもない。
そこで、彼は、どうしたか?
――どうしたのでしょうか?
実は、世界のトップリーダー達が注目するこの大舞台において、キャメロンは、意表を突く戦略に出たのです。それは、何か?
「会場との質疑応答」で勝負する。
彼は、その戦略を採ったのです。
それは、通常、ダボス会議での基調講演において、国家リーダーが行わないスタイルです。
通常、国家リーダーが基調講演を行うときは、まず演台の前に立ち、スピーチを行う。
その後、クラウス・シュワブ会長と着席して、会長との対話や会場との質疑に入る。
しかし、キャメロンは、そのスタイルを採らなかったのです。
彼は、まず、原稿も読まず、聴衆に対して熱く語りかけ、その後、ステージから会場の聴衆に向かって質問を求めた。そして、自ら聴衆を指名しながら、会場から出る質問に、次々と、当意即妙に答えていったのです。
――なるほど……
そして、この戦略は、見事に成功した。
このキャメロンのパフォーマンスを見て、多くの聴衆は、
「キャメロンは、若いのに腹が据わっている」
「様々な政策について、よく勉強している」
「さすがに、あの若さで保守党のエースにのし上がるだけあって、話術は見事だ」
といった評価を下し、キャメロンは、ダボス会議のデビュー戦を、見事に飾ったのです。