聴衆の意表を突いた、キャメロン英首相 田坂広志 多摩大学大学院教授に聞く(4)
――誰でしょうか?
2011年のメドベージェフ・ロシア大統領ですね。彼は、「位取りの戦略」で失敗したのです。
――「位取りの戦略」ですか?
ええ、ダボス会議における国家リーダーのスピーチにおいては、実は、「スピーチの内容」以前に、「いかなる立場でスピーチを行うか」という「位取り」が重要になるのですが、メドベージェフは、その「位取り」を誤った。
「ロシアという一国のリーダー」としてスピーチを行ってしまったのです。
――国家リーダーが、「一国のリーダー」としてスピーチをするのが、何が問題なのでしょうか?
ダボス会議は、「Improving the State of the World」が理念の組織です。世界の現状をより良きものにするために、世界のトップリーダー2500名が集まっている場です。その場においては、先進国G8サミットの国家リーダーであるならば、「一国のリーダー」としてではなく、「世界のリーダー」としての「位取り」で、スピーチをしなければならないのです。
それにもかかわらず、メドベージェフは、あたかも「政策スポークスマン」のごとく、ロシアの政策を、延々と述べた。それが、聴衆から不評を買い、彼の「ダボス会議デビュー戦」は、失敗に終わったのです。
これに対して、逆に、首相としてのデビュー戦を、見事なパフォーマンスで乗り切ったのが、キャメロンでした。前年5月の総選挙で、労働党に勝利し、自由民主党との連立で政権を獲得した保守党党首、キャメロンは、このとき44歳。
その若き国家リーダーが、ダボス会議のプレナリー・セッションで、初めての基調講演を行う。野党党首としては、前年のダボス会議にも出席し、パネル討論にも登壇していますが、イギリス首相として基調講演を行うのは、初めてです。