聴衆の意表を突いた、キャメロン英首相 田坂広志 多摩大学大学院教授に聞く(4)

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そして、ダボス会議に出席する世界のトップリーダー達は、そうした信念や覚悟、人柄や人間性を含む「人物」の全体を、鋭く見ているのです。
  従って、ダボス会議におけるスピーチの戦略とは、単に「基調講演において、どのような雰囲気で、どう原稿を読むか」だけでなく、「その後の質疑応答において、どのような雰囲気で、どう回答をするか」まで含めて考えなければならないのです。

「優れた話者」は「優れた役者」

――では、そうした質疑応答に、どう対処すれば良いのでしょうか?

もとより、質疑応答の最も優れたところは、「予想外の質問」「即答が困難な質問」「困惑する質問」に対して、その話者の全人的力量をもって回答する点にあるのですが、現実には、「質問者」を事前に定め、「質問内容」を定めておくこともできます。

そして、予想外の質問に対して不適切な回答をしてしまうリスクを避けるためには、こうした方法を採ることも一つの戦略であり、この方法を採る国家リーダーも、少なくないのです。

もとより、キャメロンの先ほどの当意即妙の回答も、その会場からの質問のすべてが「想定されていなかった質問」であるかどうかは、疑問ではあるのですが、キャメロンの優れたところは、仮にそうであったとしても、そのことを感じさせない自然なパフォーマンスで回答をしていったところです。

例えば、会場の聴衆を指名するときの仕草は、「やらせ的」ではなく、まさに「偶発的」な指名の雰囲気とリズムです。また、聴衆からの質問の最中にコップの水を飲むときの適度な緊張感も、その「偶発性」を感じさせます。
 その意味で、「優れた話者」とは、やはり、「優れた役者」でなければならないのでしょう。

ちなみに、ダボス会議の通常のセッションでは、基調講演方式は採らず、すべてパネル討論方式になるため、この「質疑応答力」が、かなり高度に問われる場となります。
 特に、重要なセッションほど、パネル討論をコーディネートする司会者は、FTのマーティン・ウルフ、BBCのニック・ゴーイングを始め、CNN、CNBCなど、世界的メディアの一流の編集者やキャスターが務めるため、その質問も鋭く、切れ味がよい。

こうしたセッションで、討論のパネリストを務めることもまた、世界のトップリーダーの中で話術を鍛えるという意味では、優れた修業の場となります。

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