「無観客紅白」が予想外に受け入れられたワケ 浮き彫りになった弱みと「未来の紅白の姿」

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しかし、2020年紅白については、別の方向の感想も多く聞こえてきた。

その1つは「音楽をちゃんと聴くことができた」というものである。音楽そのものをないがしろにした演出がぐっと減ったことで、歌声や演奏、歌詞の内容に耳を傾けることができたという意見だ。

例えば、大物歌手とアイドルの共演のような、一見老若男女に間口を広げたような演出、しかしその実は、大物歌手のファンもアイドルのファンも喜ばない演出が、今回は(ほとんど)なかった。「無観客」や「密」の回避が、過剰な演出の抑制につながり、それを好意的に語る意見が多かったのだ。

2つ目は、「進行がスムーズで無駄がなかった」という意見。3会場に分散させることで、セット転換を待つ時間のロスがなく、切り替えがスムーズで、結果、視聴者を飽きさせない進行につながった。

かくいう私も、第2部からは、2020年紅白の新しいあり方に身体が慣れてきたのか、YOASOBIと星野源でギアが上がり、玉置浩二の圧倒的なパフォーマンスで、テンションはMAXにまで高まった。

紅白の「あるべき姿」を2つの視点から分析

2020年紅白で表出した、「ライブ感の欠如」という弱みと「音楽をちゃんと聴かせるスムーズな進行」という強みは、けっこう本質的なものだと考えている。そしてこの、弱みの補強と強みの拡大を融合させることで、今後の紅白のあるべき姿が見えてくるのではないか。

ここで、今後の紅白のあるべき姿を考えるうえでの視点を2つ提示しておきたい。

1つは、「リアリティーとファンタジーの融合」。これは2年前、サザンとユーミンが共演した紅白を題材に、この連載の記事「『紅白』が見せた国民的求心力復活への執念」で、私が持ち出した視点だ。以下引用。

まずは、リアリティーとファンタジーの融合である。具体的にはリアリティー(生中継、生歌、生舞台、ハプニング性)とファンタジー(過剰な演出、完璧に編集された録画、違う場所からの中継)の見事な連携を意味する。もはや紅白は、どちらかだけでは食い足りないのだ。2018年紅白における松任谷由実の、「ひこうき雲」(録画)と「やさしさに包まれたなら」(生放送)の一連の流れは、まさに「リアリティーとファンタジーの融合」だった。

もう1つは「リアリティーを求める音楽トレンド」。音楽シーンにおいて、デジタル化の反動として生まれた、上記「リアリティー」=「ライブ感」へのトレンドに着目する。それはすなわち、(コロナ禍に陥るまで)着実に拡大してきたライブ/フェスの市場隆盛などに加えて、最近では、例えば「THE FIRST TAKE」の存在に現れている。

「THE FIRST TAKE」とは「一発撮りで、音楽と向き合う」YouTubeチャンネルのこと。いろんなシンガーが本当に一発撮り(=FIRST TAKE)で歌う映像への人気が高まっているのだ。今回の紅白出演者では、LiSA、Little Glee Monsterらが同チャンネルに出演。派生コンテンツの「THE HOME TAKE」には、miletやYOASOBIらが登場している。

言い換えれば、昭和の「3生」紅白は、一周回って現代的なものになっているのだ。

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