タコが全身を使い感情を表せるという驚愕事実 知性を持っているという研究結果が明らかに

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餌(右)を放り出して腕を広げるオオマルモンダコの幼体

この個体は、水槽の外に立つ巨人を自分に食事を毎日くれる者と認識していたのだろう。不快な思いをさせた当の巨人にあからさまに怒りをぶつけた。表情どころか、体全体を使って憤慨を示したのだ。まだ幼いタコが、不快や怒りという感覚をもち合わせているのではないかと思しき一幕であった。

この出来事も含めて、オオマルモンダコ幼体が見せた事柄は、2019年に軟体動物の専門科学誌『モラスカン・リサーチ』に掲載された。

生物の「表情」には社会性と深いつながりが

動物に見られる表情。自身の内面を表に出すなんて、それは動物だからだよ。そう考えたくもなるが、「顔に出る」という言葉にある通り、表情は私たちヒトの特徴だ。顔だけではなく、体の動きにも心の内面がつい現れる。例えば、そわそわするという動作。心中穏やかではないという状況が、動作に現れるのだ。私たちは思いのほか、心のうちを表に出してしまう。FBI捜査官は容疑者の仕草に注目し、取り調べをするそうだ。

一見すると、自身の心のうちを他者に示すことは不利益をもたらし、不要のもののように思える。一方で、社会の中ではさまざまな情報が伝達される。特にそれが生命の危機に関わることであれば、情報として共有することの意味は大きい。捕食者が接近したことを、同種他個体の驚愕の表情を通じて知ることができれば、それは自分の身を守るという点で有益だ。

思わず出てしまうのが表情ならば、それをコントロールして表出することはできない。コントロールできないのが厳密な意味での表情だからだ。つまり、意図せずして発しているのが表情ということになる。社会を構成する同種他個体に、捕食者の接近という緊急事態を表情により善意で教えているわけではない。「顔色ひとつ変えず」ということはできないのだ。

むしろ、思わず発した驚愕の表情が、結果として周囲にいる同種他個体にとって有益な情報として機能しているということだ。こうして、自分も助かり、同種他個体も助かり、それにより同種個体の集団、群れが存続する。

群れの存続は、驚愕の表情を発した本人にとって有益だ。群れに身を置くことで、捕食者と餌生物発見の精度が上がり、繁殖相手と出会う機会も増える。1人で行動して資源を独り占めするという生き方もあるが、これには全てを1人で賄わなければならないという負担とそれに伴うリスクも伴う。社会性の動物は、得られる利益の大きさゆえに社会性を維持し続けていると言える。

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