経済再興には「両利きの経営」が不可欠な理由 話題の戦略論を日本への紹介者が解き明かす

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そもそもこの30年間、世界の経済成長の中心は日本の外側に移っており、開発、生産、販売のあらゆる側面で企業活動が国境を越えてグローバル化している時代に、あくまでも国内事情にすぎない五重苦を低成長の言い訳にするのは無理がある。

そこに破壊的イノベーションの時代を既存企業が生き残って成長するには、既存事業を磨き込んで稼ぐ力を最大化する「深化」力と、新しいイノベーション領域を取り込む「探索」力という、異質な組織能力を共存させ、両者間の資源配分を含め有効に機能させる非常に高度な経営力が問われる。こうした本書の議論は、まさにわが意を得たりであった。

冨山和彦(とやま かずひこ)/経営共創基盤(IGPI)グループ会長。1960年生まれ、東京大学法学部卒業、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画し、COOに就任。2007年の解散後、IGPIを設立。近著に『コーポレート・トランスフォーメーション』(文藝春秋)がある(撮影:尾形文繁)

それは、いずれも実は新領域の「探索」に成功していたカネボウ(化粧品事業を「探索」)やダイエー(コンビニエンスストア事業を「探索」)の衰退についても、よくある通説をもう1つ掘り下げる示唆を提示していた。

チャールズから「日本語版を出したいのだが、どう思う?」と問われ、私は二つ返事で「ぜひ出そう」と答え、そこから東洋経済新報社と、早稲田大学の入山章栄教授を巻き込んでの『両利きの経営』出版作業が始まった。

入山教授も私も、本書が日本の企業人に対して持っている重要性を確信していた一方で、真摯な2人の研究者が英語圏での読者を想定した著作が、そのままでは多くの日本の読者にとって難解であることに鑑みて、前解説として入山教授が「日本の読者向けの読み方ガイド」を書き、後解説として私が「日本の企業人にとっての示唆」を書く構成をとり、2019年2月の出版へと漕ぎ着けた。

結果的に原著の出版から3年を経過していたが、むしろ日本企業のマインドセットとしては、デジタル革命がAI/IoT/ビッグデータのフェーズに入り、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が日常化し、ほとんどの産業と企業が自分ごととして破壊的イノベーションに対峙しなくてはならないという機運が高まるタイミングと重なった。

それが、このような本格的研究書が異例のベストセラーとなった背景だと思う。

コロナショックで決定的な必読書へ

コロナウイルスの感染拡大は、まさに破壊的な危機を世界と日本の経済社会にもたらしているが、これは2つの意味で本書の重要性をさらに高めている。

このような危機に際して個々の企業レベルでいえば、まずはサバイバルである。その一方で危機の破壊性は同時に企業が抱えているさまざまなタブーやしがらみ、いわゆる経路依存性を破壊する力を持っている。平時では難しい不連続な大改革に切り込む好機でもあるのだ。すなわち、既存の「片手利き」企業が「両利き」に転換するチャンスなのである。

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