経済再興には「両利きの経営」が不可欠な理由 話題の戦略論を日本への紹介者が解き明かす

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今、求められているCXは、企業の最も根幹的な部分の改革であり、企業にとって憲法改正(あるいは新旧憲法の共存)くらいのスケール、時間軸、マグニチュードの大改革にならざるをえない。

例えば組織構造とその運営については、従来は年功階層性、ボトムアップ、集団主義、コンセンサス重視であったものを、能力ベースのネットワーク型、トップダウンかつボトムアップ、強い個人ありき、コンセンサスより合理性へとシフトすることが求められる。

人事組織管理についても同様に、従来は同質的、閉鎖的、固定的で、新陳代謝サイクルは約40年、一元的人事制度であったものが、多様的、開放的、流動的、新陳代謝サイクルは約10年(年平均ターンオーバー10%)、多元的人事制度が新憲法案となる。

CXはきわめて本質的で、長期間にわたり組織にストレスを強いる難しい継続的な改革である。10年単位での長期抜本的な会社の形の変容を私たちは覚悟しなくてはならないのだ。

そして、CXの真のゴールは恒久的にCXを続ける力、持続的な組織能力の変容力を獲得することにあり、変化に対応する組織能力を持つ企業が両利き経営時代の勝者になっていく。そう、デジタル革命の新フェーズで日本企業が逆襲に転じる長い戦いは、これからが本番なのである。

もともとコロナ禍前よりエレクトロニクス分野を中心に先んじてDXが進行し、それが結果的に産業構造とビジネスモデルの大変容につながってきており、本気で変わろうとする先行的な会社が登場しつつある。

例えば日立は、10年前の経営危機以来、ソリューション型企業へと猛烈なCXを続け、最近ではソニーやパナソニックは、事業ポートフォリオの入れ替えが容易な持ち株会社制へと大きく会社の形を変え、トヨタ自動車が理系学生の大学推薦を全廃して、伝統的な新卒一括採用モデルを事実上転換するという報道もなされた。

こういった会社群は、コロナ禍においても「両利きの経営」型企業へとさらにアクセルを踏んでいるように思う。

30代、40代が経営の主役へ

一方、いまだ会社の「憲法改正」には遠い状況の企業が多数派である。本気で変わらなければならないという組織的共感の醸成は簡単ではない。書籍を読んで理屈で納得することと、これまで野球をやってきた人が自分ごととして明日からサッカーをやることには大きな差がある。

しかし、こうした変化を対岸の火事として他人事として眺めているか、明日のわが身として自分ごととして考え、本気でCXを起動するかで5年後、10年後には大きな差がつく。

この状況で主役となるのは、現在の経営者世代だけでなく、むしろ将来の経営を担い、逃げることのできない30代、40代である。まずは地道なマインド転換の啓蒙活動と並行して自らの事業部や拠点などにおいてミニCXに着手し、来るべき憲法大改正への機運を醸成することが、必ず近い将来、実を結ぶことになるだろう。

『両利きの経営』がさらに幅広い世代に読まれ、その一助となり、日本経済再興の促進剤となることを願ってやまない。

冨山 和彦 経営共創基盤(IGPI)グループ会長

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とやま かずひこ / Kazuhiko Toyama

経営共創基盤(IGPI)グループ会長。1960年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、スタンフォード大学MBA、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。2007 年の解散後、IGPIを設立。2020年10月より現職。共著に『2025年日本経済再生戦略』などがある。

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