経済再興には「両利きの経営」が不可欠な理由 話題の戦略論を日本への紹介者が解き明かす

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イノベーションと経営に関しては、ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授が1997年に出版した名著“The Innovator's Dilemma”(邦題『イノベーションのジレンマ』)において、既存の確立されたビジネスモデルを運営している古くて大きな企業には構造的、必然的にイノベーションの果実を享受できないメカニズムが働くことを世に提示していた。

当時、まだベンチャー企業の域を出ていなかったGAFAが覇権を握る時代の到来を予言していたのである。

しかし、そのメカニズムが働くとすれば、それを排除するように会社を改造することこそが経営の仕事のはずなのに、なぜそれができないのか。逆に、一部の古くて大きい企業ではなぜそれができるのか。

チャールズは当時、破綻に追い込まれた、大手レンタルビデオチェーンであるブロックバスターと、破壊者ネットフリックスの物語、そして、すでにデジタルカメラの登場によって業績悪化が顕著だったコダックと事業領域の転地に成功しつつあった富士フイルムの明暗などを例に挙げて、熱心に議論を仕掛けてきた。

夫人のシェーデさんも、日本企業研究の専門家だったので、三つ巴の知的格闘技で築地のすし屋の夜は更けていった。

日本企業にとっての「両利きの経営」の重要性

それから何年か経った2016年、チャールズからハーバード大学のマイケル・タッシュマン教授との共著“Lead and Disrupt”を手渡された。同書において、破壊的イノベーションの時代に既存企業が成功するカギとなる概念は、「深化」と「探索」の2つの「両利きの経営」能力、組織能力とされていた。

両利きは英語で、ambidexterityという難しい単語なのだが、最初、チャールズからそれを言われたときには正直、「どういう意味?」と聞き返したものだった。

しかし、本書を読み進めていく中で、1990年頃から顕著になったグローバル化とデジタル革命による破壊的イノベーションの時代に入り、それまでジャパン・アズ・ナンバーワンと称賛されたところから一転、長期停滞に入った多くの日本企業にとって、本書が多くの重要な示唆を持っていることに私は衝撃を受けた。

日本企業の不振について、円高や法人税率、解雇規制などの外部要因に帰責する五重苦、六重苦論が長年、経済界の主流だった。しかし、企業再生の最前線にいた私は、いわゆる日本的経営の競争モデルが急激で不連続な変化にもろいことに不振の真因があると考えるようになっていた。

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