経済再興には「両利きの経営」が不可欠な理由 話題の戦略論を日本への紹介者が解き明かす
こうなると同質的で固定的な組織集団はもろい。スポーツにたとえるなら、長年慣れ親しんできた野球という競技が消滅して突然、サッカーに変わってしまうような話だ。そこで日本企業は野球選手にサッカーの練習をさせて対応するが、競争相手は最初からサッカーに最適な経営モデルと人材で構成されるレアル・マドリードやマンチェスター・ユナイテッドのような企業である。
これでは勝負にならない。ちっぽけなベンチャー企業だったGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に日本の大企業群はあっさりと圧倒されていく。
中西さんも『社長の条件』の中で、オペレーショナルな領域で集団をまとめるマネジメント力は重要だが、今や社長の仕事の中核は、もっと高い次元で大きな戦略的方向転換やビジネスモデルと組織能力の大改造を行うことにあると強調されていた。
日本的経営モデルは、「深化」においては、いまだに有効性を持っているが、その一本足打法では破壊的イノベーションの時代を生き残れないということである。
では、どのような会社組織なら勝てるのか。そのキーワードとなるのが「両利きの経営」だ。野球もサッカーも両立させる多様性を前提にした経営である。野球を年功序列型の組織や稼ぎ頭の既存事業とするなら、サッカーはこれからの時代をつくる新しい人材や新事業である。
つまり、既存事業を深めて(深化)しっかり稼ぎながら、新規事業を見つけて(探索)資源投入する、「深化」と「探索」を同時並行で行う両利き経営力を持つべく会社を大改造、すなわち、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)することこそが生き残りのカギになるのである。
もちろん、私が2020年初夏に上梓した新著も『コーポレート・トランスフォーメーション』となった。
これからが逆襲の本番、長く抜本的変容を覚悟せよ
デジタル革命の新しいフェーズ、すなわち自動運転や遠隔医療などの「リアル×シリアスフェーズ」は、ハードウェアやオペレーションに強い従来型の成熟した企業にとって脅威であると同時に大きなチャンスをもたらす時代でもある。
今までDXの主舞台だったサイバー空間のエンターテイメント、ゲーム、SNSと比べて、質量も熱もあり、人の命に直結する事業領域であり、ハード技術や安全性にかかわる慎重な改善的積み重ねが必須になるからである。
しかし、ここでも日本的経営一本足打法では必ず失敗する。これをチャンスにできるかどうかは、両利きの組織能力を身につけるCXができるかどうかにかかっている。
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