経済再興には「両利きの経営」が不可欠な理由 話題の戦略論を日本への紹介者が解き明かす

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もう1点、前回のいわゆるブラックスワン的危機だったリーマンショックと今回の危機が異なるのは、グローバル金融起源の危機ではなく感染症対策による行動抑制から発しているため、あらゆる産業に破壊的な影響を与えている点である。

グローバル競争を行っている大企業だけでなく、飲食・宿泊や交通などのローカルなサービス業、中小企業に対してむしろ大きな打撃を与えている。また、行動抑制はリモートワークの普及や経済活動、生活様式のネットシフトを加速し、デジタル革命はさらに加速し、その影響範囲を一気に広げている。

そう、両利き経営力の獲得、強化は、今やすべての産業、そして、大企業から中小企業まですべての企業にとっての中核的な経営課題となりつつあるのである。

本書『両利きの経営』は、今やすべての経営者にとっての必読書といってよいほどの重要性を持っているのだ。コロナパンデミックが収束しない中で、本書が売れ続け、読まれ続けていることは、この国の経営に関わる多くの人々が的確な問題意識を持っている証左であり、私はこの変化に大いに勇気づけられている。

両利きの経営とCX

『両利きの経営』に刺激を受け、チャールズに対する私なりの知的な往復書簡として、久しぶりに単独で新著を書き始めた。『両利きの経営』の出版間もない2019年5月に、私はまさに財界主流中の主流である経団連会長の中西宏明さんとの共著『社長の条件』を出していた。

かつての自分の「非主流」ぶりを考えると、中西さんが共著の声をかけてくれたことは実に革命的なことだったが、そこでの中西さんとの議論から多くのインスピレーションを頂戴したことも、新著の執筆のエネルギーとなった。『両利きの経営』と『社長の条件』の根本的な問題意識は、実に共通していたのである。

「深化と探索」を日本企業全体に当てはめると、「日本的経営」モデル、すなわち新卒一括採用の社員が終身年功制で働くきわめて同質的で固定的な組織が、連続的な改善・改良で安くて高品質な製品を大量生産・大量販売するオペレーショナルな成功モデルの限界が浮かび上がる。

それは戦後復興期から長期にわたり劇的な成功を収めるが、1990年代に入ると、世界ではグローバル化とデジタル革命が劇的に進行し、破壊的イノベーションによって事業モデルを根こそぎ転換され、連続的な改善・改良力だけでは戦えない産業領域が急速に増えていった。コンピュータ産業やAV機器などのエレクトロニクス産業がその典型だ。

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