ゴア元米副大統領の「二面性」とは? 田坂広志 多摩大学大学院教授に聞く(3)
――なるほど、「矛盾した人格の同居」が、国家リーダーの資質ということですね。
そうです。そして、そのことを体現しているがゆえに、世界のトップリーダーからの信頼を得ている政治家が、もう一人います。
アンゲラ・メルケル・ドイツ首相です。
メルケルは、毎年、ダボス会議に出席しスピーチを行います。
従って、ダボス会議では、彼女がメディアのインタビューを受ける場面なども見る機会がありますが、間近で見るメルケルの印象は、「率直で親しみやすい人物」「質素で堅実なお母さん」といったものです。
実際、メルケルは、そうした人柄の一面を持っており、それゆえにこそ、国民的な人気を集めているのですが、一方、ダボス会議に参加するトップリーダー達からは、安定感と信頼感のある政治家として高く評価されています。
ただ、このトップリーダー達は、「人柄が良い」というだけの理由で、一人の政治家を信頼することはありません。
――では、なぜ、彼らは、メルケルを信頼するのでしょうか?
それは、このトップリーダー達が、彼女の持つ、もう一つの「人格」を評価しているからでしょう。
メルケルの「親しみやすい人物」の奥には、もう一つの人格があります。
「したたかな政治家」という人格です。
たしかに、ダボス会議で彼女のスピーチを聴いていると、彼女の「強さ」を感じます。
彼女の主張は、いつも、極めてストレートであり、論理的であり、説得力がある。
そして、何がどうあるべきかの判断基準や方針も明確であり、迷いが無い。
しかも、強い信念を持って、それを主張してくるので、議論するには、手強い相手でしょう。
その姿を見ていると、表面的な雰囲気は全く違いますが、かつてのイギリス首相、サッチャーを彷彿とさせます。