ゴア元米副大統領の「二面性」とは? 田坂広志 多摩大学大学院教授に聞く(3)
「毎回、初心」の心構え
――なるほど、それが「素人」と「玄人」の違いなのですね・・・
いや、素人と玄人の違いは、もう一つ、あります。
それは、「毎回、初心」という心構えです。
すなわち、本当のプロフェッショナルの話者は、同じ感動的な話を、何十回と繰り返しても、毎回、「それを初めて語る」ように、新鮮な気持ちで語ることができるのです。
それは、やはり、舞台の役者や映画の俳優の世界を見ていれば分かることでしょう。
優れた舞台役者は、舞台でのクライマックスの場面を、観客を深い感動に巻き込みながら、何度でも演じることができます。ときに、舞台の名役者が、ある演劇を「千回記念公演」などと銘打って行いますが、それは、同じ感動の場面を、同じ深い情感で、千回、繰り返し演じてきたということに他なりません。
同様に、優れた映画俳優は、カメラの前で、ある感動的なシーンを、何度、撮り直しになっても、繰り返し、繰り返し、その深い情感で演じることができます。
そうであるならば、優れた話者もまた、この「毎回、初心」という心構えで、感動的な話を、何度でも、深い情感を込めて語れる人間なのです。
すなわち、「優れた話者」とは、ここまで述べてきた深い意味において、「優れた役者」であり、「優れた俳優」であると言えます。
俳優レーガンの「反撃」
――「優れた話者」は、「優れた役者」であり、「優れた俳優」であると・・・
実は、そのことを強く感じさせられたシーンがあります。
それは、1984年のアメリカ大統領選でのこと。
民主党のウォルター・モンデール候補と、共和党のロナルド・レーガン候補のテレビ討論の場面です。
この討論では、モンデール候補が、説得力ある論理展開でレーガン候補の政策の問題点を指摘し、鋭く攻撃しました。その論理は明晰であり、舌鋒も鋭い。テレビを見ている視聴者の多くが、「これはモンデール優勢か・・」と感じた瞬間です。
その瞬間、レーガン候補は、意表を突く「反撃」に出ました。
レーガンは、そのモンデールの攻撃に対し、真っ向から反論するのではなく、ただ静かに微笑み、その攻撃の言葉を柔らかく受け止め、優しい雰囲気で手を広げ、少し困惑した表情で肩をすくめたのです。
ただ、それだけの仕草。
ただ、それだけの仕草なのですが、このレーガンの表情と仕草で、形勢は逆転しました。
なぜなら、その瞬間に、テレビに映し出されている映像は、「相手を舌鋒鋭く攻撃する悪辣なモンデール」と「攻撃されても微笑みを絶やさない好人物レーガン」という印象になってしまったからです。